2015-09-01から1ヶ月間の記事一覧

細見良行『琳派』

細見良行『琳派』 2015年は「琳派四百年」だという。本阿弥光悦が徳川家康から、京都・鷹峯に土地を与えられ、「芸術村」を作り、俵屋宗達らと芸術制作を行った年の始めだからだ。 多くの日本美術を収集している京都・細見美術館長の細見氏が、尾形光琳…

五十嵐太郎『忘却しない建築』

五十嵐太郎『忘却しない建築』 建築史の五十嵐氏は、いまだ東日本大震災は終わっていないという立場で、記憶の風化と、スクラップ・アンド・ビルドに抗う視点で、瓦礫(「被災物」)を抱きしめて、いかに復興を考えるかを、この本で描いている。 土地を奪い…

ストーン『オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史』(2)

ストーン&カズニック『オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史』(2) 2巻では、冷戦開始、アイゼンハワー、ケネディ、ジョンソン、ニクソン大統領の時代が描かれる。ストーン氏の史観の面白さは、「覇権帝国」アメリカが、いかに最強の軍事力と…

西寺郷太『プリンス論』

西寺郷太『プリンス論』 いま私は、プリンスの「アート・オフィシャル・エイジ」(2014年)を聞きながら、西寺氏の力作を読んでいる。あの衝撃的な「パープル・レイン」から、ちょうど30年後アルバム曲である。 「囚われた者達を解放するんだ。さあ、…

ストーン『オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史』(1)

ストーン&カズニック『オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史』(1) アカデミー賞監督ストーンとカズニック・アメリカン大歴史学教授が書いた20世紀アメリカ史である。20世紀に「覇権国家」になったアメリカの、光と影を描いている。 スト…

カヴァン『氷』

アンナ・カヴァン『氷』 これだけ終末の世界を、超現実的に美的に描いた小説はないだろう。イギリスの作家カヴァン(1901―68年)は、カフカ的世界を描くが、より暴力的であり、終末の世界観が強い。 気候変動が核戦争後に起こり、「氷の世界」として迫…

カー『火刑法廷』

ディクソン・カー『火刑法廷』 構造主義文学の研究者ツヴェタン・トドロフは、幻想文学を、小説で語られる奇怪な出来事について、合理的に説明をとるか、超自然的説明とるかの「ためらい」が構造にあるとした。(『幻想文学論序説』東京創元社・創元ライブラ…

村井良介『戦国大名論』

村井良介『戦国大名論』 この本を読んでいるとき、安保関連法案が参院特別委員会で強行採決された。村井氏は、デリダやベンヤミンの「法措定的暴力」を、基礎を持たない暴力と位置づけ、法の根源には無根拠の暴力があるという方法論を使い、戦国大名の軍事力…

益川敏英『科学者は戦争で何をしたのか』

益川敏英『科学者は戦争で何をしたか』 2008年ノーベル物理学賞を受賞した益川氏が、現代科学のおかれた揺らぎの状況に警鐘を鳴らした書である。私は益川氏に、戦後の核兵器開発に協力した物理学者たちが、贖罪意識から1955年に核廃絶を求めた「ラッ…

マクロイ『暗い鏡の中に』

ヘレン・マクロイ『暗い鏡の中に』 マクロイのミステリを読むと、二つのことを感じる。ひとつは自我のアイデンティテイの揺らぎである。もうひとつは、科学的合理性と超常現象などの幻想性の対比である。このミステリは、それが明確に現れている。 多重人格…

マクロイ『あなたは誰?』

ヘレン・マクロイ『あなたは誰?』 マクロイ(1904―1994年)は、アメリカのミステリ作家で、サスペンスと本格推理をない交ぜにした傑作を書いた。この本は1942年の初期作品である。 読み出すと謎が面白く一気に読める。構成も緻密だが、同時にサ…

内藤湖南『中国近世史』

内藤湖南『中国近世史』 東洋史学者で京大教授だった内藤湖南(1866−1934年)の古典的名著である。内藤はジャーナリストから歴史学者になっただけに、中国現代の辛亥革命―中華民国時代にかかわり、視野の大きな歴史観をもって東洋史を描いた。 私は…

ジャット『失われた二〇世紀』(下)

トニー・ジャット『失われた二〇世紀』(下) この巻では、ヨートッパとアメリカの二〇世紀を、いくつかに絞った領域で述べている。1940年のナチ・ドイツに対するフランスの敗北は、国内の左翼の蜂起を恐れた支配・軍人層の不安が根底にあると見る。占領…

ニコルソン『イスラムの神秘主義』

ニコルソン『イスラムの神秘主義』 どの宗教にも神秘主義はある。だが、中世イスラムから起こったイスラム神秘主義(スーフィズム)は、イスラム教の理解に欠かせない。イスラム教は、律法と戒律の共同体の宗教であるが、他方、個人の内面に深く沈潜し、唯一…

ジャット『失われた二〇世紀』(上卷)

トニー・ジャット『失われた二〇世紀』(上) ヨーロッパ現代史のジャット氏(2010年死去)は、二〇世紀は過ぎ去ったとはいえないのに、論争やドグマ、その理想や恐怖は 曖昧模糊とした誤った記憶に転落し、連続性を否定し、積極的に「忘却」しょうとし…

坂井豊貴『多数決を疑う』

坂井豊貴『多数決を疑う』 多数決は、一見民主主義のように見える。多数決は本当に国民の意思を適切に反映しているのか。坂井氏の本は、社会選択理論によって、多数決の精査と、その代替案を検討した力作である。 多数決のもとでは有権者は、自分の判断の一…

ナンシー『思考の取引』

ジャン=リュック・ナンシー『思考の取引』 現代フランスの哲学者ナンシー氏の書物論、読書論である。だが、私には「書物の詩学」のように思える。見事な翻訳であり、詩を読むようだ。例えばこういう文章だ。書物の神秘主義。 「一冊の書物は、流星だ。散り…

デズモンド・モリス『サル』

デズモンド・モリス『サル』 動物行動学者モリスには、動物行動学から見た人間論『裸のサル』(1994年刊、角川書店)という名著がある。今度は本当のサルを、この2013年刊の本で描いている。サルについての人間社会での歴史・文化から生態まで、該博…