2012-07-01から1ヶ月間の記事一覧

高橋英夫『西行』

『山家集』 高橋英夫『西行』 西行論は数多くある。小林秀雄、吉本隆明、白洲正子、小説では辻邦生「西行花伝」などが私の本棚には並んでいる。高橋氏の西行論は、西行の「心」に肉迫したもので、生涯から和歌まで、西行伝説から芭蕉への影響まで書かれてい…

黛まどか『引き算の美学』

黛まどか『引き算の美学』 俳人の黛さんは2010年から1年間パリで文化庁・文化交流使として俳句を講義し句会も催すなど活動した。その成果がこの俳句論に現れている。異国から日本文化を見直すと、日本の伝統文化は、言わないこと、省略することによって…

フリードマン『資本主義と自由』

「自由論を読む③」 ミルトン・フリードマン『資本主義と自由』 1962年初版だが、資本主義における市場の自由から市民的自由を論じた「絶対自由主義」(リバタリアン)の古典といっていい。2002年版「まえがき」でフリードマンは、出た当時は無視され…

吉岡斉『新版原子力の社会史』

吉岡斉『新版 原子力の社会史』 日本の原子力開発の社会史である。こうした通史は少ないので貴重な本である。吉岡氏は原子力発電に批判的論者だが、その論調を抑えて極力客観的に科学技術史の基盤から、社会史、政治史、国際関係史、経済史の総合的視点で原…

ケラリーノ『消失 神様とその他の変種』

ケラリーノ・サンドロヴィッチ『消失 神様とその他の変種』 日本21世紀演劇で注目され、下北沢本多劇場などで公演されているケラリーノの劇作品2本が収録されている。ケラリーノのドラマの会話文体は、短く易しい日常会話で、歌舞伎のツラネのように登場…

新藤兼人『ある映画監督』

新藤兼人『ある映画監督』 映画監督新藤兼人と女優山田五十鈴さんが亡くなった。日本映画の昭和の時代がまた消えていく。新藤監督のこの本は「溝口健二と日本映画」という副題が示すように、日本映画の黎明期から戦後にかけて新藤監督が師事した溝口監督の栄…

中嶋彰『現代素粒子物語』

中嶋彰・KEK協力『現代素粒子物語』7月4日スイスにある欧州合同原子核研究機関(CERN)は、素粒子物理学の標準理論で万物に重さを与えた素粒子「ヒッグス粒子」が発見されたと発表した。1960年代にヒックス博士によって予測された素粒子が、やっと発見…

ミル『自由論』

「自由論を読む②」 J・S・ミル『自由論』 近代自由主義の基本になった本である。現代アメリカのリベラリズム思想の基本になっている。ミルの自由主義は二点からなる。一つは「公・私」二分割の考えだ。個人の私生活と私的行為の領域は「自分にしか影響を与え…

徳善義和『マルティン・ルター』

徳善義和『マルティン・ルター』 徳善氏は、ルターについて聖書を読みぬいた人物として捉えている。キリスト教は「ことばの宗教」だという。ルターはラテン語で難しく読めない聖書を自国語・ドイツ語に翻訳し、講演で民衆に伝えようとした。時代はニューメデ…

ルター『キリスト者の自由』

「自由論を読む①」 マルティン・ルター『キリスト者の自由』 ルターは、神の全能を侵害するものと個人の判断する自由意志論を否定し、神学決定論を主張したといわれる。だが同時に人間個人こそが、信仰の本質たる救済への「信仰の自由」をもつ主体だと見なさ…

斎藤貴男『消費税のカラクリ』

斎藤貴男『消費税のカラクリ』 消費増税の関連法案が国会で成立見通しで、税率は2014年8%。15年10%に引き上げられる。斎藤氏の本は、消費税とは何かをその歴史、ヨーロツパの付加価値税との比較、1989年に導入されてからの問題点など総合的に…

伊藤守『テレビは原発事故をどう伝えたのか』

伊藤守『テレビは原発事故をどう伝えたのか』 2011年の福島原発事故はメディアにとつても大きな分水嶺になった。伊藤氏は3月11日から3月31日に期間のNHKと民法キー局4局の原発報道800時間の映像を見てドキュメントとして検証している。労作であ…

西部謙司『FCバルセロナ』

西部謙司『FCバルセロナ』 2012年サッカー欧州選手権はスペインがイタリアに4−0の大差で勝ち、史上初の連覇を達成した。2010年ワールド・カップ優勝とスペインサッカーの強さを証明した。その中心にはFCバルセロナの選手たちがおり、好敵手レアル…

シェイクスピア『テンペスト』

シェイクスピア『テンペスト』(『あらし』) 最近『テンペスト』は注目され、様々な批評が出ている。脱植民地主義批評で、この戯曲の孤島に出てくる土着人キャリバンを論じた『キャリバンの文化史』(青土社)なども出ている。1990年代の東京での公演を…