2015-05-01から1ヶ月間の記事一覧

佐藤優・斎藤環『反知性主義とファシズム』

佐藤優・斎藤環『反知性主義とファシズム』 作家・佐藤氏と精神科医・斎藤氏という異色の対談で、AKB48から、村上春樹、宮崎駿まで、現代日本の精神風景を語り合う。イタリアの作家・ウンベルト・エーコの『永遠のファシズム』(岩波書店)に似通った「…

円満宇二郎『ひねくれ古典「列子」を読む』

円満宇二郎『ひねくれ古典「列子」を読む』 中国古代の思想「列子」は、孔子や老子、荘子、墨子、孫子などに比べると、あまり読まれていない。円満氏は、「列子」の逆説に満ちたひねくれた話の面白さを読み直そうとする。 「列子」といえば、私は、幸田露伴…

宇野常寛『文化時評アーカイブス』

宇野常寛プロデュ−ス『文化時評アーカイブス』 2014年のサブカルチャーの文化地図を、宇野氏が中心になって論じたもので興味深い。アイドルがカルチャーの中心になった2010年代というアイドル論と、ニコニコ動画だけでなく、「ゲーム実況」の人気を…

日暮吉延『東京裁判』

日暮吉延『東京裁判』 今年は敗戦から70年である。連合国11ヶ国が28人の日本指導者を「平和に対する罪」で裁き、「共同謀議」で「侵略戦争」をおこなったことで有罪とした。自衛戦争論は認められていない。日暮氏は、冷静に実証的に東京裁判を丹念にた…

木田元『マッハとニーチェ』

木田元『マッハとニーチェ』 哲学者・木田氏は、20世紀思想を形成したのは、世紀転換期の知的空間でのマッハとニーチェだとしている。それが、フッサール、ハイデカー、ウィトゲンシュタインの思想に連関していく。私は木田氏の本で、ウィーンの哲学者・マ…

レム『砂漠の惑星』

スタニスワ・レム『砂漠の惑星』 レムのSF小説は魅力的である。この小説も、宇宙の星での未知の非生物とのコンタクト物語とも読めるし、宇宙冒険物語とも読めるだろう。だが、この小説にも。地球中心主義や、人間の科学的理性の限界が描かれており、宇宙に…

レム『ソラリス』

スタニスワフ・レム『ソラリス』 20世紀SFの傑作である。多層な小説の構造を採る。宇宙に出て行く人類が出会うであろう「未知なもの」を、人間が考えていたどんな存在とも異質であり、相互理解も不可能に近い「他者」として、レム氏は捉えている。 人間…

廣野由美子『批評理論入門』

廣野由美子『批評理論入門』 小説の読み方・解釈は読者の自由である。だが、批評理論となると「現代思想」になる。だから数多くの理論が生まれる。廣野氏は、題材をメアリ・シェリー著「フランケンシュタイン」にとって、「小説技法編」と「批評理論編」の二…

須田桃子『捏造の科学者』

須田桃子『捏造の科学者』 世紀の大発見と騒がれた「STAP細胞」事件が、科学史に残る不正・捏造になる一連の過程を描いた科学ジャーナリズムの傑作である。毎日新聞科学環境部の須田桃子記者の渾身の取材によって、綿密に辿られていく。ミステリのような…

長田弘『奇跡』

長田弘『奇跡』 詩人・長田氏が2015年5月死去した。私は、自分の妻が死んだとき、長田氏の詩「花を持って、会いにゆく」(『詩二つ』)を泣きぬれて読んだ。長田氏の妻瑞枝さんがなくなったのは2009年だった。「どこにもゆかないのだ。いつもここに…

A・ヴァインケ『ニュルンベルク裁判』

A・ヴァインケ『ニュルンベルク裁判』 2015年は、第二次世界大戦終結から70周年である。ヴァインケは、ドイツ。ナチの戦争犯罪を裁いたニュウルンベルク裁判を、国際軍事法廷(1945−46年)と、12の継続裁判(46年―49年)の二つを取り上げ…

桑野隆『バフチン』

桑野隆『バフチン』 1920−30年代にロシア(ソ連)で活躍した言語学、文芸理論のバフチンは、80年代に再評価された。桑野氏のこの本も87年に出版されているが、今読んでもその全体像に肉薄している。 バフチンといえば、ドストエスキーやラブレーの…

佐藤勝彦『相対性理論』

佐藤勝彦『相対性理論』 佐藤氏は、宇宙物理学者で、宇宙創成のビッグバンが起こる状態を「インフレーション宇宙論」(講談社ブルーバックスに同名の著書がある)という仮説で解明した人である。と同時にアインシュタインの相対性理論を、市民層にわかりやす…

金森修『科学の危機』

金森修『科学の危機』 いま科学の危機がいわれる。原発事故の放射能問題、遺伝子組み換えの生命科学、科学論文不正、医療、薬害、軍事科学など科学の根本を揺るがす事態が生じている。金森氏は、なぜ科学危機が生じたのかを、科学の変質をもとに解き明かし、…

S・パルンビら『海の極限生物』

S・パルンビら著『海の極限生物』 海洋生物が好きな人には、こたえられない本である。極限の海洋環境で生きている生物が様々に取り上げられ、色彩豊かな写真も魅力的なのだ。その生態もアメリカの海洋生物学者・パルンビ氏の、最新の研究により面白く書かれ…

穂村弘『短歌の友人』

穂村弘『短歌の友人』 歌人・穂村氏の現代短歌論で、刺激的著書である。近代、戦後、ポスト戦後の短歌を貫通して考えながら、さらに今のネット短歌まで視野に入れている。 例えば「口語短歌の現在」では、「想い」と「うた」の間にレベル差がないフラットな…