ウォーカー『スノーボール・アース』

ガブリエル・ウォーカー『スノーボール・アース


 大陸移動説に匹敵する地球史の科学革命としていま「全地球凍結」仮説が論争になっている。5億年から7億年にかけて全地球が氷も世界になり凍結していたが、その氷が解けたときカンブリア紀の多細胞生物の多様な大爆発がおこったというものだ。「青い惑星」は「白い惑星」だった。この本は女性サイエンスライターのウォーカー氏が、いま北極やグリーンランドからアフリカの酷熱の砂漠やオーストラリアまで地質調査に駆け巡る地質学者の克明な研究と仮説と検証の戦いを描き、とても面白い本である。100万年が一瞬である地質学的時間のなかで、実験が出来ない一回限りの地球変動や気候変動、地軸、地磁気変動を調べるため、探険家のように岩石の露頭を求める研究者たちの人間性まで描かれていている。
ウェーゲナーの大陸移動説が発表された時は夢想だとされたが、いまや地球科学ではプレートテクトニクス理論として通説になっている。この「全地球凍結仮説」もそうなる可能性はある。この説の主人公ハーバート大教授で地質学者ポール・ホフマンの生い立ちから始まり、彼が北極からアフリカの砂漠まで赴き、いかに調査し仮説を発表し、論争で戦っていくかは読み物としてもスリリングだ。なぜ凍結し、なぜ氷がとけ、多細胞生物が生まれたのか、それを実証できたのか、地球史上最大の謎はまだまだ端緒についたばかりだ。それが次第に凍結の原因が大陸移動説に接近し、また火山爆発による二酸化炭素増大による気候変動で解凍されていく方向も次第に明らかになろうとしている。だが原生生物が生き残り多細胞生物の爆発になるカンブリア紀の謎はまだまだ解けていない。
ウォーカー氏によると、全地球凍結は20億年前にもあり繰り返されているから、1億年単位で考えれば再びある可能性を最後に述べている。「私たち地球は、なんといっても発明の王者である。地球史を通じて、地球は常に新しい形へと変容し、目を見張るような新しいアイデンティティをたずさえてきた。変化は地球にとって危険なことではない。それこそが本質なのだ。この地球の一断面を共有する私たち人間や動物は、弱き者なのである」とウォーカー氏は締めくくる。(川上紳一監修、度会圭子訳、早川書房)