後藤和久『決着 恐竜絶滅論争』

後藤和久『決着!恐竜絶滅論争』


 2010年に地質、生物学、地球物理学者ら41人がメキシコ・ユカタン半島に6550万年前白亜紀末に小惑星が衝突したことが、恐竜絶滅の引き金になったと科学誌「サイエンス」に発表、恐竜絶滅論争決着宣言といわれた。後藤氏もその一人である。その後の専門科学者の反論も踏まえこの本は書かれている。読んでいて科学者の地道な調査研究による仮説が激突していて、ドラマのようにスリルがある。後藤氏の惑星衝突説はやはり有力だと思えるのだが。
 白亜紀末の生物の大量絶滅は光合成生物である植物が絶滅し、その食物連鎖で草食、肉食動物が絶滅していく。食物連鎖の頂点にいた恐竜はまず草食恐竜が絶滅し、それを食べる肉食恐竜が絶滅する。だが鳥型恐竜や哺乳類、ワニ・カメ、両生類は生き残る。この絶滅を免れた動物は落ち葉や腐食した木、菌類、昆虫など腐食連鎖にいたものである。また淡水生物だった。では何故太陽光が数年間遮断され寒冷化し食物連鎖が途絶えたのか。1980年代に地質学者アルヴァレスが惑星衝突説をだし、1991年にメキシコでチチュルブ・クレーターが発見され、その直径180キロの円形構造で裏付けされつつある。
 地質学者、地球物理学者、天文学者らの説明では直経10から15キロ、秒速20キロ、放出エネルギーは広島型原爆の10億倍、衝突地点の地震マグニチュード11以上、津波300メートル、硫酸の酸性雨が降り注ぐという恐るべきものだった。この衝突説に題する反論は後藤氏によると、①恐竜は突発的衝突でなく除々に絶滅した②火山(インド・デカンなど)の爆発説③惑星衝突はあったが絶滅とは無関係の三点だという。この本で後藤氏はこの三点に丁寧に反論していく。そこが面白かった。今後チチュルプ・クレーターのさらなる現地掘削や調査が必要だろう。さらにその環境変動に生物がどのくらい耐えられるのかなど、今後来る人類絶滅危機の大災害のためにも必要になる。(岩波書店