松戸清祐『ソ連史』

松戸清祐『ソ連史』



ソ連の興亡史は20世紀視現代史の大きな主題だが、いい通史がなかなかない。ロシア革命から1991年のソ連解体までの70年間の歴史は。社会主義国家という実験であり、松戸氏によれば、ヨーロッパ近代の「対抗文明・対抗国家」だったという。この対抗文明がいかにしてロシア革命で創造され、わずかの期間に失敗し崩壊したかは、まだ十分に解明されてはいない。ソ連崩壊後のグローバル時代の経済混迷とアメリカ一極主義の揺らぎのなか、いまなぜ対抗文明が失敗していったかは重要な現代史の問題である。松戸氏のこの本は、ロシア革命からスターリン体制の確立、大祖国戦争、米ソ冷戦、非スターリン化と雪どけ、ゴルバチョフの登場とペレストロイカソ連邦の解体までを的確に通史として描いている。とくにゴルバチョフの回想録などを多く使い非スターリン化以後の歴史を重点的に描写しょうとしているのが面白かった。
松戸氏はソ連を冷戦の敗者、失敗した社会主義、民意を無視した全体主義国家というステレオタイプの見方を退けている。試行錯誤の試みが数多く試みられたがうまく成功しなかったことも視野に入れてソ連史を書いている。だがなぜスターリンが政権を掌握し大テロルをおこなったか、フルシチョフ時代の非スターリン化はなぜ民主主義体制につながらなかったのか、米ソ冷戦は軍産複合体制をつくりだしたが、果たしてソ連は冷戦に負けたのか、農業と工業の矛盾や、計画経済と市場経済の矛盾は、いかに解決されようとしていたのか、一党民主主義は果たして全体主義だったのか、ソ連邦と各民族共和国の民族自決はどう矛盾していたのかは、まだこの本を読んでもわからないところが多い。とくにソ連解体につながったエリッイン以後プーチン時代の超資本主義化は触れられていないため、そこから振り返る視点も必要だと私は思った。だが現代の様々な対抗文明の試みは、ソ連史には読み取れる。(ちくま新書