塚原文『20世紀思想を読み解く』

塚原史『20世紀思想を読み解く』

 「人間はなぜ非人間的になれるか」を中軸として20世紀思想を考えようとした本である。前衛芸術(アヴァンギャルド)から全体主義を通って、高度消費社会とグローバル世界、メディア(現実とイメージの逆転)を横軸にし、理性の主体としての個人の自由と平等の普遍的人間という近代西欧の人間中心主義が、20世紀に無意味や無意識、個から大衆集団、全体へ、さらに文明から未開へ、オリジナルから複製や記号へと大きくシフトを変えていく精神史を辿っている。
「全体」では個から全体(大衆・群集)への思想的変化を取り上げている。「無意味」では孤独感からダダ的前衛芸術がファシズムにいたる非人間化を考える。「未開」では文明から原始的未開への憧れがピカソゴーギャン岡本太郎の芸術から論じられている。「無意識」ではシュールリアリズムからフロイト精神分析まで非理性お発見が考察され、「メディア」ではボードリヤル、ベンヤミンなど現実とイメージの逆転、デジタル化した記号化の支配が非人間化を助長していく精神状況が記述されている。
芸術思想を中核にしているのが塚原氏の手法であり、岡本太郎論などは出色の面白さがある。だが、科学技術思想がほとんど触れられていないのは、やはり20世紀思想を読み解くためには片手落ちなのではないかとも私は思ってしまう。
なぜ人間が非人間的になれるのかは、21世紀になって起こったかは2001年9・11ニユーヨークテロと2011年フクシマの地震原発事故について論じた塚原氏の論考に大きな示唆がある。3・11に関して塚原氏はヴィリリオの『ナノ・テクノロジー』を論じ、最新のテクノロジーが人類の「全面的事故」の段階に達し「自殺的進歩」の時代が始まったとし、科学技術と経済発展のスタンダード化される過程で事故が「世界化」し、過去・現在・未来という時間区分が、無時間的な瞬間のいつおこるか予測不能な事故のため消滅せずにいられないとすれば、未来の年表はナノ(10億分の1秒)の瞬間の連続になるという。9・11のメディアの現実とイメージの逆転論も示唆的だった。(ちくま学芸文庫