本郷和人「謎とき平清盛』

本郷和人『謎とき平清盛

 題名とは違い謎ときというよりも、古代国家の崩壊と中世にいたる「史論」をデッサンしている本格的歴史書だと思う。確かに清盛が白河上皇落胤なのかとか、平家は武士か貴族かなど謎ときの話題にも迫っているが、それも本郷氏の古代、中世の「史論」がしっかりとした「史実」に基盤をおいているので、NHK大河ドラマの乗っかり本ではないと思う。戦後歴史学石母田正、佐藤進一、石井進五味文彦、黒田俊雄の学説を継ぎながら新しい見方を呈示しようとしている。
本郷氏は清盛を日本中世のパイオニアで武士の可能性を追求し、「幕府」支配という江戸時代まで続く統治方式を治承クーデターでの「福原幕府」で示し、源頼朝鎌倉幕府に甚大な影響を与えたと考えている。治承・寿永の内乱を「善の源氏対悪の平氏」の構図は鎌倉幕府の編纂した「吾妻鏡」にあるとし、「源平の戦い史論」から脱却することを説き、その内乱の主役は在地領主である武士だお考える。清盛がおこなったのは、武力で蜂起し朝廷を制圧し「自立」へと踏み出したことと、朝廷のシステムをそのまま用いて(知行国制など)朝廷のなかに二重権力として政権を作り出そうとしたとも見ている。「権門体制」という貴族、大寺社、武士の頂点に天皇が立ち支配する古代国家に武士権力の楔を打ち込んだが清盛だった。だが、朝廷のシステムをそのまま利用し「知行国制」に基盤を置いたため、国衙を占拠した在地領主は平家の福原幕府に不満を持ち、第二革命を起こし平家は滅亡しおたということになる。
本郷氏の鳥羽上皇から後白河上皇にいたる院政論や保元・平治の乱や源氏論、武士論、招婿婚論なども面白くもう少し読みたいと思った。(文春新書)