瀬戸内寂聴『寂聴と読む源氏物語』

女性作家と「源氏物語」(その①)

瀬戸内寂聴『寂聴と読む源氏物語
 
 瀬戸内氏によれば、「源氏物語」にはたくさんの恋愛が書かれているが、突き詰めると人間の孤独と愛の激しさ、喜び、むなしさがあるという。瀬戸内氏は、誰かを愛したら愛した瞬間に苦しみが伴う。それが恋の原則で、誰かを愛し、悩み、失望の繰り返しだが、悲しみと共に愛する喜びの人生が、より豊かな人生だという恋愛観をもち、「源氏物語」は男女の性愛と心の揺らめきを書ききっているともいう。光源氏に愛された女性はだれ一人として本当に幸せになっていない。7割が出家した「出家物語」だとも述べている。この本は女性の自我の独立とプライドが、男性との恋愛でいかに悩み葛藤していくかに焦点をあわせて、登場する女性を瀬戸内流に描いている。その葛藤を私小説の元祖として描いた道綱母蜻蛉日記』が「源氏物語」の原型になったと考えている。
瀬戸内氏は源氏と継母藤壺の禁断の愛をプライドと愛の葛藤としてみている。小説「藤壺」を書き歌舞伎化された。空蝉の不倫と「拒む女」となっていく愛も、プライドと自我との葛藤から読まれている。紫の上はのぞきから少女誘拐までして、源氏にもっとも愛されたが、もつとも愛されたゆえに不幸だったと位置づけている。美人ばかりがこの物語にでてくるわけではない。末摘花は高貴な貴族と不美人とのアンバランス、不美人が輝く時を書き、瀬戸内氏は作者・紫式部が投影されているから、奥の深い描写になったと書いている。「自由奔放な情熱家」朧月夜を瀬戸内氏は好きだという。次に取り上げる田辺聖子氏も好きだと書いているから、女性作家は朧月夜好きなのか。地味だが世話女房・花散里はプライドがなく、だから苦しみもない、ここまで自分を無にしたら男は幸せで自分も苦しまない。瀬戸内氏はフランスの女性作家ユルスナール「源氏の君の最後の恋」を取り上げ、老化し目が見えなく成りつつある光源氏の最後を面倒みる花散里を描いているのを興味深くよんだと記している。(講談社文庫)