陳舜臣『中国画人伝』

陳舜臣『中国画人伝』

    この本は13世紀元時代から20世紀初の清時代の中国の画人47人を扱っていて中国美術史ともいえる。黄公望、王蒙、文徴明、八大山人、石涛、金農、呉昌碩、斉白石、除悲鴻などの画人の人生や画風が紹介されている。
    董其昌の「尚南貶北論」ではないが、江蘇、湖南など中国南部の画人が多いのは、やはり「揚州八怪」など南にこの時代は画人が多かったのかと思う。中国では、書、詩、絵が連動し総合芸術として「三絶」というが、官人エリートがこの三絶に秀で、西欧のような職人的画家よりも重んじられた。文人画(気韻の重視、胸中の風物を写す)が多くなるが、陳氏は明末からの職業画家もきちんと取り上げている。(呉彬など)
    陳氏による中国の文学芸術の見方が随所に散りばめられていて楽しい。例えば「破格者の系譜」があり、それは唐の耽美詩人李賀が好きな人だといい、魯迅毛沢東を挙げ、清の画人法若真を論じる。法若真の山水画は山の部分がぐにゃぐにゃと内に潜り込み、全体が流れていて李賀の詩の形象化だと書いている。     この本を読んで、中国の画人が、元や清という異民族支配の亡国の意識と深く関わっていることを知った。八大山人の抵抗精神、元に仕えた画人、黄公望のように政争に巻き込まれ獄中生活を送った画人などやはり「脱俗」の気風は強い。
    だが、「積墨」のような墨を丹念に積み上げた絵や、王蒙のような山や岩を細密画のように描いた絵や、趙之謙のような没骨法の花卉の色彩が印象派を思わせる画や、山水の諸要素を分解して再構成するキュービズムのような王原祁の絵など多様なのだ。
    中国画を見ていると、地球的広大さ(山水だけでなく花卉画でも)を感じられ、不安が鎮められていくようだ。西欧画とは異なる自然と一体化した精神の深さがひしひしと迫ってくる・精神安定にもよいのだ。(新潮社)