田中修『ふしぎな植物学』

田中修『ふしぎの植物学』


 草食男子とか植物人間とか植物はかんばしくない表現に使われる。だがこの本を読むと生態系の食物連鎖の根源に植物があり、その生物としての知恵や生きる工夫は見事なものであることがわかる。人口70億人を超えた地球で食糧は不足しないのか。科学が発達したが人間は太陽光を利用し、水と二酸化炭素からブトウ糖やデンプンを作る植物の光合成さえ作ることが出来ない。田中氏は「科学は一枚の葉っぱにおよばない」といいい、葉のエコマークのような食糧生産工場の仕組みを説いている。太陽光の青色光、緑色光、赤色光、遠赤色光など虹色をレタスは見分けている。植物は触感があり、触られると感じ、インゲンマメの芽生えの茎を指でこすっていると茎は肥大化する。
植物はストレスと闘う。葉は汗をかき、蒸散という工夫で熱くなった熱を逃がす。その汗は導管という細い官で引き上げられ葉の表面の気孔から出される。ポンプはいらない。根のハングリー精神や乾燥地で生き延びる知恵も凄い。オジキソウを例にとった植物も夜眠る体内時計の存在も面白い。紫外線という活性酵素の毒素を防ぐカーネーションの知恵と闘いや、病原菌やカビから身を守るサクラの葉、食べられてもいいための工夫などこの本で学ぶことは多い。田中氏は植物においては視覚、聴覚、味覚、触覚を持っていそうだと述べ、地球の重力の感覚も発芽、茎、根の上下感覚として見られるし、球根や種子が夜の長短を感じ寒暖を知り発芽の時期を決定するともいう。
生殖に関してもオシベ、メシベの近親相姦を禁止する仕組みや、接木(クーロン的だ)の重要性も植物の特徴だと田中氏はその重要性を指摘している。ソメイヨシノが一本の木の接木からいまの全世界のソメイヨシノが生じているのや、ナシの「20世紀」がゴミ捨て場から拾われた一本の木から生じたことなど種子を使わず増殖する植物のふしぎを記している。(中公新書