森山徹『ダンゴムシに心はあるのか』

森山徹『ダンゴムシに心はあるのか』


 我が家の小さな庭にもダンゴムシがいる。鉢植えを持ち上げると逃げ出す。触ると丸くなる。森山氏はこのダンゴムシに様々な行動実験をし、大脳がなくても「心」があることを実証しようとする。ダンゴムシの原意識に迫る面白さがこの本にはある。ある動物の行動が、何故そのとき、その場所で発現したかを探究する学問に動物行動学がある。ノーベル賞を貰ったローレンツによる鳥のヒナの刷り込みや、フリッシュのミツバチの8の字ダンス、ティンバーゲンのイトヨの砂掘り行動などは動物行動学の古典的研究だが、森山氏のダンゴムシの「心」研究もその延長線上にある。
森山氏がいう「心」とは何か。心とは、隠れた活動部分であり「内なるそれ」であり、ある行動を発現させる時、ほかの余計な行動を起こさせないよう自律的に抑制=潜在させることである。その抑制は隠れているが「未知の状況」に遭遇すると予想外の行動として発現してくる。森山氏はダンゴムシを「未知の状況」に置く実験を数多くおこなう。たとえば通路が水で囲まれた環状通路を作り、さらに通路に障害物を置く。すると泳ぐダンゴムシが少数だが出現するし、さらに障害物に乗り上がり伝う行動も行われる。T字迷路実験でも変則転向や壁登りがでて、普段の定型行動と違う自律的な発現する。道具使用も見られる。大脳をもたないが、知能―道具の使用による問題解決が乱され、「知能の偏在性」が見られると森山氏は考える。それはタコの生態でも確かめられている。
いまロボツト科学で行われている機械的認知と行動とは違う自律的選択の意志が、ダンゴムシにあるというのは面白かった。つまり「心」があるということになる。(PHP研究所)