宇野常寛、小林よしのりなど『ナショナリズムの現在』

宇野常寛小林よしのりほか『ナショナリズムの現在』

     ネット右翼ネトウヨ)化し、高揚する排外主義とヘイトスピーチなどの日本のナシュナリズムを、討論・対談した本である。小林氏以外は、1970年代生まれの論客であり、右でも左でもない論の立て方が面白かった。
     萱野稔人氏は、ナショナリズム国益すら無視して暴走していると語り、ナショナリズムは別のナショナリズムでしか押えられないという。反ナショナルな物語でなく「別の物語」をいかに作るかとも。輿那覇潤氏は、「排除と統合」の側面のどちらが出るかが問題で、広く包摂していく共感の範囲を広げることだと主張している。
     ネトウヨの社会からの疎外による「承認」要求と、「居場所」の必要と、所得再分配の不満が背後にある。朴順梨氏は、被害者意識と怨念感情が、運動「生きた実感」を、もたらしていると述べている。中国の侵略被害感情と韓国の植民地支配の怨念感情が、ネトウヨの怨念、被害者意識と共鳴していく。
     小林よしのり氏は、歴史認識論争が情報化・非物語化していき、自己の承認欲求だけで、思想や歴史観が建前化するのに対し、新しいアジア主義を「太東亜論」シリーズを今描き出し、ネトウヨに対抗した「物語」を作ろうとしている。。
宇野氏と輿那覇氏の対談も面白い。
     安倍晋三首相の「美しい国へ」と、小沢一郎氏の「日本改造計画」を比較して討論している。安倍氏は、祖父・岸信介、父・安倍晋太郎以来の戦後民主主義安保闘争での「無念心情」「怨念心情」と、田中角栄小沢一郎小泉純一郎以来の自民党の戦後システムの構造改革路線の混合体で、それがネトウヨの共感を呼ぶと分析する。
     小沢氏の日本改造が「透明志向+戦後否定」だが、安倍氏は「情念志向+戦後否定」と輿那覇氏はいう。戦後経済成長政策の「延命計画」だとも。宇野氏は、政党政治にコミットする以外の方法の模索として、インターネットの相互扶助やロビイングと組織票によるリベラル再興を語っている。(萱野稔人小林よしのり・朴順梨・与那覇潤・宇野常寛朝日新書