ミシェル・レリス『オペラティック』

ミシェル・レリス『オペラティック』

      レリスといえば、民族学者で作家であり、「幻のアフリカ」(平凡社)が翻訳されている。レリスが幼少期に両親に連れられてオペラをみてから、一生に渡りオペラ愛好家だったのを、初めて知った。この本は、没後未発表だったオペラの断想90編を集めた異色のオペラ論である。
      レリスが方々で見たオペラ評から、劇場や歌手論(デバルディやカラスなど)、プッチーニ邸訪問、さらに、チャイナーズオペラ(京劇)、ハイチのブードゥーのダンス、ギリシアのカラギョズまで多岐に渡る。歌舞伎との比較もある。
レリスがオペラに見だすのは「祝祭的な雰囲気のなかで味わう、純粋の美的楽しみ」である。闘牛との比較も面白い。
      同じ民族学者・レヴィ=ストロースは、レリスの本は音楽の考察が欠けていると批判したが、演劇・音楽。舞台美術、ダンスの「総合芸術」としての捉え方は見事だ。だが同じ主張のワグナーに対しては、この本を読むと、かなり批判的である。
      レリスはプッチーニを評価し、屋敷にまで行くし、シェーンベルグとの比較もし、「トスカ」「蝶々夫人」「トゥーランドット」「ラ・ボエーム」について、細部にわたり論じていて面白い。「トゥランドット」は、「三文オペラ」や「ヴォッェック」とともに、20世紀の傑作だとし、恐怖と橉憫が交互にやってくる悲劇だとし、中国的オリエンタリズムとイタリア喜劇とが見事に総合されていると述べている。
      ロマン派のあとの20世紀「ヴェリズモ」オペラを、「現実のなかから激発的の要素を取り上げた自然主義」といい、レオンカヴァザッロ「道化師」「「カヴァレリア・ルスティカーナ」やベルグヴォツェック」を論じている。プッチーニはその先駆者という。
      レリスのオペラを見たときの自伝的生活も描かれ、「オペラと闘牛」「オペラと美食」「オペラとソワレ」など読んでいて楽しい。(水声社、大原宣久、三枝大修訳)