松田浩『NHK』(新版)

松田浩『NHK』(新版)

      2014年は、マスメディアの「公共性」と信頼が問われた時代だった。NHKは、経営人事に政府介入が行われた。朝日新聞は、慰安婦の「吉田証言」の虚偽を放置し、過ちの早期・謝罪を主張したコラムを、掲載拒否したのである。
      松田氏のこの本は、70年前に「自主」「自律」の民衆の公共放送として出発したNHKが、なぜ政府支配に組み込まれていったかを、実証的に検証している。
      NHKの独立性は、①放送の自由②組織・人事の独立③予算財政・事業計画の独立から成っていた。だが、いずれも政府権力により、ないがしろにされていく。
      松田氏はその歴史を丹念に追っていく。1981年ロッキード・三木前首相発言カット事件、2001年慰安婦に焦点をあてた「問われる戦時性暴力」への政治介入(安倍晋三氏が主導)、8年間裁判で争われた。
      2007年放送法改正による経営委員の権限強化、2011年強制的地上デジタル移行、2013年新経営委員に4人の安倍首相のお友達人事、2014年籾井新会長の問題発言と、政権による「NHK乗っ取り作戦」は成功していく。
      いまマスメディアは。市場商業主義、政治介入、インターネットの隆盛、IT立国による4K、8Kなど国策的電器産業育成などで「知る権利」格差など、危機に陥っている。NHKが、政府からの独立と公共性重視の英国BBCとは、対極のメディアになっていったかがよく書かれている。
      松田氏の改革提言は重要である。①独立通信・放送行政制度の確立②会長や経営委員の選任システムに、公募・推薦制など取り入れる③「説明責任」「公開」「参加」の徹底④従業員の内部的自由の確立⑤労組と視聴者運動を盛んにし、権力監視の市民的必要性に答えることである。これは、NHKだけでなく。マスメディア全体にも、今後考えていく提言だと思う。
 だが私は、NHKには、民放局に比べれば、「公共的な価値」を創造していると思う。たとえば「NEWS WEB](11時30分)「クローズアップ現代」(午後7時30分)などは、視聴者の意見や多元的討議の萌芽がみられる。いくつかのドキュメンタリーも優れている。Eテレにも、公共的な文化価値の番組が、見られると思う。(岩波新書