丸山宗利『昆虫はすごい』

丸山宗利『昆虫はすごい』

     昆虫学者の丸山氏が書いた本を読むと、地球は「昆虫の星」と思えてしまう。見つかっただけで100万種、それも一部に過ぎず、その多様性はたしかにすごい。空を飛翔し、地下にもぐり、変態を行い、突然変異と自然選択でいまだ進化し続ける。
     本能が多様な適応形態を産み出し、社会性を始め、たくみな生存の仕組みを生命に与えた。その生態を次々と丸山氏は示してくれて、昆虫百科といってもいい。狩猟採取、農業、牧畜、建築、戦争、奴隷制、共生、嫉妬、異常生殖など人間に先駆けている。
     私が面白かったいくつか挙げてみる。まず「擬態」。複製文化のように模倣し、別のものに成り捕食されず生存する。植物ににせるバッタやシャクトリムシは有名だが、トビモンオオエダシャクの幼虫のように、葉を食べ植物と同じ体表の成分まで模倣する「化学擬態」まである。無毒昆虫が有毒昆虫に似せる。アゲハチョウが有毒マダラチョウに擬態する。またまずいものに擬態する昆虫もいる。
     「寄生」と「奴隷制」もある。この本を読むと、昆虫の寄生は共生と紙一重だと思える。「好蟻性昆虫」は、アリに成り済まし家族と瓜二つになり、臭いを同じにする化学擬態で巣にはいり、餌をもらい、幼虫をも食べ成長する。社会寄生もある。
     奴隷制もすごい。サムライアリは自分ではなにも出来ないが、奴隷にしたクロヤマアリが奴隷としてすべてやってくれる。交尾を済ませた雌アリがクロヤマアリの巣に単独で侵入し、そこにいた女王を殺し、新女王になり、自分の産んだ卵の世話を働きアリにさせる。丸山氏は「単独クーデター」という。
     生殖もすごい。自分が交尾したあとほかのオスと交尾させない貞操帯をかぶせるギフチョウや、オスがメスの腹部のどこにでも陰茎を突き刺すトコジラミカメムシはオス同士の同性愛の交尾があり、そのオスがメスと生殖すると自分の利己的遺伝子が入り込む。雄雌逆転や子殺しもある。クローン増殖もある。巨大な卵を一つだけ産む種も、厖大な数の卵を産む昆虫もいるのだ。
     私はこの本を読んで思う。昆虫は、人間を逆風刺していると。(光文社新書