柴崎文一『アメリカ自然思想の源流』

柴崎文一『アメリカ自然思想の源流』

  20世紀アメリカの環境破壊を告発した『沈黙の春』『失われた森』などで、自然環境運動を訴えたレイチェル・カーソンの自然思想の根底には、19世紀からのオーデュボンやソーロー、ミューアというアメリカ自然思想があると、柴崎氏はいう。
  ヨーロッパの自然喪失文明に対し、新大陸アメリカの原始自然に直面し、開拓による環境破壊にいきつく文明において、里山のような人里に接した「フロントカントリー」と、野生や原始自然を保護する「バックカントリー」の思想がいかに形成されたかを、柴崎氏は丹念に追っていく。
  オーデュボンは、『アメリカの鳥類』や『マサチューセッツ博物誌』などを書き、野生の鳥の画家として、ナチュラリストだが、リョコウバト絶滅を危惧し、原始自然の保護を産む思想を創り出した源流だという。
   この思想ももとに20世紀原始自然保護主義者で、ヨセミテ国立公園の先駆者ミューアの思想が「バックカントリーの思想」として取り上げられ、シエラクラブを結成した経緯も描かれている。セコイアの森を守り、ヘッチ・ヘッチー渓谷のダム建設に反対運動を起こし、破れていく悲劇は、日本の現状にも当てはまるだろう。
   柴崎氏の本の特徴は、アメリカの超越主義思想の大家エマソンの思想が自然思想に大きな影響を与えたという従来の見方に対し、ソーローやミューアの自然思想がいかに異なるかを示した点にある。エマソン思想がヨーロッパ観念論の上にあり、自己や自然の根底に神の存在を直観することにあり、自然の多様性に本質的価値を置いていないとも指摘している。
   弟子だというソーローは、『森の生活』や『メインの森』など書いたが、歩いて見る今ある自然のなかで生活し、生きた自然と一体化する自然観だった。そこにはエマソンの自然の背後の超越思想と、違う考え方があると柴崎氏はいう。この自然思想の相違はミューアにも見られ、アメリカ思想を考えるとき重要な視点だと思う。良書である。(明治大学出版会)