水島宏明『内側から見たテレビ』

水島宏明『内側から見たテレビ』

    水島氏は、札幌テレビや日本テレビで、ドキュメンタリー制作に携わっただけあって、いまテレビが抱えている問題を内側から的確に指摘している。劣化するテレビマンや番組を鋭く批判するが、ドキュメンタリーなど調査報道は時代を映す鏡として、「事実」とむかいあう地道な手作業として、希望を持っている。
    2014年には、耳の聞こえない作曲家佐村河内氏の美談や、STAP細胞の小保方氏とリケジョの活動(朝日新聞慰安婦」の虚偽の吉田証言も」)など、本質的事実を検証せず、都合のいいい「物語」を追う報道姿勢が問題化した。主人公を美化し、肯定面のみ強調し、分かりやすい単純な物語にしていくテレビ局の在り方を、水島氏は抉りだしている。
    水島氏は、NHKの民放化を批判し、無自覚な「上から目線」や、正義の制裁感情を分析し、藤圭子自殺報道は模倣自殺を呼び込む報道だったとも、指摘している。
    「やらせ」や「捏造」を、フジテレビ「ほこ×たて」の事例をあげ、2007年関西テレビあるある大事典Ⅱ」との共通性を述べ、報道番組にも「映像偽装」があるという。マニュアル主義、成果競争主義、当事者に取材せず安易な紹介取材、編集作業などの分業化などを原因として挙げている。
    テレビは権力の監視機能を弱体化させてきている。2013年TBSの「NEWS23」に対し、自民党が「公平公正を欠く」と取材拒否した事件で「謝罪」手打ちにしたことをとりあげ、本当に偏向報道だったのかを疑問視している。水島氏は、2014年衆院選で、自民党から、各テレビ局に「選挙報道の公平中立」という文書を出したため、街頭インタビューが減り、政策争点が激減、注目選挙区や党首演説、アベノミクス強調になったと分析している。(「朝日新聞」2014年12月27日付)
   水島氏は、弱き者のジャーナリズムの重要性を主張している。だが日本テレビのドラマ「明日、ママがいない」で養護施設や慈恵病院をきちんと取材せずに、「加害者性」を与えた「想像力の欠如」を丹念に述べている。また芸能人母の生活保護支給からはじまったワイドショーなどの、生活保護バッシングも、テレビ劣化として分析している。
   テレビの希望として、NHKのドキュメンタリーの優秀性や、地方テレビ局のジャーナリズムの希望の芽を、水島氏は期待している。(朝日新書