デイリー『「定常経済」は可能だ!』

ハーマン・デイリー『「定常経済」は可能だ!』

     有限の地球において、環境危機、エネルギー資源や水・食料の不足、貧富格差の増大、高齢化社会という状況に来ているのに、相変わらず「経済成長=GDP至上主義」が進んでいる。経済成長しパイが大きくなれば、それが滴り落ちて(トリクルダウン)貧しさが解消するということを、30年間も聞き続けてきた。デイリー氏は、環境経済学者で、一定の持続可能な「定常経済」に変わることは、いま可能だと主張している。
     生産の便益だけ測り、環境や社会的コストを無視する「不経済成長」に対し、デイリー氏は「一定の人口と一定の人工物のストックをもつ経済」にいかに変えるかを考えている。デイリー氏は定常経済においても、正の経済成長が出来るというのである。量的拡大の「成長」と、質的向上の「発展」をわけて考えている。
     デイリー氏は、基本的資源に対し「キャップ・アンド・トレード」の仕組みを設けるべきという。キャップとは資源の上限を決めることで、その割当量をオークションで公正に再配分する。再配分後の割当量を売買取引し、効率的な割当てる。割当量の最初の所有権は国に持たせる。CO2排出量取引制度から、漁場、森林まで資源全体におこなう。
     さらに環境税の改革。課税基盤を今の「労働」「消費」「資本」から、自然から取り出す「資源」と自然に戻す「廃棄物」へとシフトする。「最低所得」と「最高所得」の間の格差の幅を制限する。労働日の長さを、働く人が選択できる変数にしていく。
     国際貿易を制限し自由貿易・資本移動を制限する「新しい保護主義」を説き、環境コストの内部化で製品物価が上がったら、環境無視の海外製品に「相殺関税」をかけるのがよいとしている。
     WTO、世銀、IMFを、ケインズの当初計画だった「国際清算同盟」に降格させる。さらに、民間銀行が中央銀行に預け入れる準備預金の準備率を100%に引き上げる。国民勘定を改革しGDPを、「費用勘定」と「便益勘定」に分けるとも主張している。
     急進的改革のようにも読めるが、地球の閉じたシステムの有限性が限界に近付きつつある現代に、社会主義に代わる21世紀の「地球資本論」として、現実性ある主張とも思えるのである。聞き手の枝廣淳子氏の引き出しかたも、十分な知識に裏付けられていて素敵だった。(岩波書店