2014-01-01から1年間の記事一覧

永田和宏『現代秀歌』

永田和宏『現代秀歌』 歌人・永田氏が選んだ現代短歌の「百人一首」であり、恋愛、青春、家族、四季自然、病と死など10の部類に分けられている。多様な現代短歌が一望できる。 永田氏によれば、現代短歌は、昭和20年代後半に起こった前衛短歌運動を「近…

『分裂する大国アメリカ』(「週刊東洋経済」)

『分裂する大国アメリカ』(「週刊東洋経済」11月1日号) アメリカ分裂の本を、私が興味深く読んだのは、ケネディ大統領補佐官で歴史学者のアーサー・シュレージンガー『アメリカの分裂』(都留重人監訳、岩波書店)だった。90年代だから、シュレージン…

服部茂幸『アベノミクスの終焉』

服部茂幸『アベノミクスの終焉』 10月31日、日銀は追加の金融緩和に踏み出した。市場に流し込むお金を10兆―20兆円増やし、長期国債を買うのを年80兆円にし、金利を下げるというものだ。異次元緩和から1年半での追加決定は、物価上昇を「2年で2…

細見和之『フランクフルト学派』

細見和之『フランクフルト学派』 フランクフルト学派といえば、ホルクハイマー、アドルノ、フロム、ベンヤミン、ハーバーマス、マルクゼーゼなど、20世紀思想の大きな思想学派である。70年代に持て囃され、私も著名な書を買って当時挑戦したが、難しく途…

原武史『思索の源泉としての鉄道』

原武史『思索の源泉としての鉄道』 原氏は日本政治思想史学者で、私も『大正天皇』や『昭和天皇』を読んで、実証に基づく天皇論に多く学んだ。最近は、有名思想家のテキスト解釈による思想史から、鉄道や団地、広場など「空間の政治学」市民・国民の「公共圏…

宮上茂隆『大阪城』

宮上茂隆『大阪城』 戦国時代の大名たちは、建築・土木業者でもあった。土建国家(天下普請)の原型はここにある。信長が築城した安土城は、日本建築史に輝く名城だろう。その復元の全貌がいま明らかになっている。その延長上に、豊臣秀吉が建築した大阪城が…

モディアノ『家族手帳』

パトリック・モディアノ『家族手帳』 今年度ノーベル文学賞のモディアノ氏の小説は、失われた記憶を探し求めていく。「生きるとは、記憶を完成しようとすることだ」(ルネ・シャール)の言葉が題辞にある。 だが、プルーストの『失われた時を求めて』に比べ…

大塚英志『メディアミックス化する日本』

大塚英志『メディアミックス化する日本』 大塚氏がいうメディアミックスとは、キャラクターや物語が複数のメディアで多元的に語られることをいうと共に、そのようなテキストを、多数が二次創作のように生成する「物語消費」も含んでいる。世界観やキャラクタ…

モディアノ『八月の日曜日』

パトリック・モディアノ『八月の日曜日』 今年のノーベル文学賞受賞したモディアノの1986年の作品である。映画を見ているような感覚ですぐ読了した。モディアノ作品がいくつか映画化されているのが良くわかる。(「イヴォンヌの香り」など)ミステリ仕立…

中村哲之、渡辺茂ら『心の多様性』

中村哲之・渡辺茂・開一夫・藤田和生『心の多様性』 比較認知科学とは面白い学問である。ヒトも動物もAI(人工知能)も同等に扱って、それぞれの特別な脳がいかに外界を認知し、自己認知意識を持つかを比較する。開東大教授は、コウロギはコウロギの脳を持…

杉山大志『地球温暖化とのつきあいかた』

杉山大志『地球温暖化とのつきあいかた』 杉山氏は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の統括報告書の執筆責任者だけあって、温暖化に対する見方は重要な考えが含まれている。冷戦終結後の二酸化炭素(CO2)排出の数値目標を「京都議定書」で定め…

門脇むつみ『巨匠狩野探幽の誕生』

門脇むつみ『巨匠狩野探幽の誕生』 17世紀江戸・寛永期画壇を席巻した狩野派の狩野探幽の全体像を描いた労作である。門脇氏は、探幽の描く肖像画(例えば「黒田忠之像」など)に出合い、独特なスケッチ風な線がかたどる人物の確かな存在感により、探幽を調…

舘野正樹『日本の樹木』

舘野正樹『日本の樹木』 植物学者・舘野氏が生態学を踏まえ、ヒノキ、ブナ、ケヤキなど日本の樹木26種の進化の秘密を書いた本である。筆者が撮影したカラー写真が、数多く掲載されており楽しい。山登りしたときや、野外で木を見分けられるなと思った。 日…

福田千鶴『豊臣秀頼』

福田千鶴『豊臣秀頼』 今年は大阪の陣400年である。ということは豊臣秀頼没後400年ということになる。23歳の死は「悲劇の貴公子」という伝説を呼んだ。凡庸な秀頼と淫乱な母茶々(淀殿)という見方は、徳川中心史観が作り出したという福田氏は、客観…

サックス『貧困の終焉』

ジェフリー・サックス『貧困の終焉』 西アフリカのエボラ出血熱の蔓延は危機的である。あわてて、米国は3億5千万ドル、日本も4500万ドルの援助を決定した。医療システムや公衆衛生が、貧困によりなおざりにされてきたことも、大き要因である。 サックス…

クリストフ『文盲』

アゴタ・クリストフ『文盲』 クリストフ『悪童日記』(ハヤカワ文庫)が、映画化(ヤーノシュ・サース監督作品)された。ハンガリー生まれの亡命作家の傑作は、90年代にベストセラーになった。私事で恐縮だが、当時死ぬ前の同僚・黛哲郎学芸部記者に勧めら…

オースターとクッツエー『ヒア・アンド・ナウ』

オースターとクッツェー『ヒア・アンド・ナウ』 往復書簡2008−2011 アメリカ人気作家ポール・オースタ−と南アフリカのノーベル賞作家クッツェーの2年余の往復書簡で面白い。ニューヨークとオーストラリア・アデレートに住む二人が、オースターは郵…

スィンバ『すごいインド』

サンジーヴ・スィンハ『すごいインド』 スィンハ氏は、インド工科大学を卒業し、1996年に人工知能研究開発のため来日した。その後みずほ証券など勤務し、いま日本とインドを結ぶコンサルタントをしている。IT大国、グローバル人材大国になっていくイン…

クレイン『イチョウの奇跡の2億年』

ピーター・クレイン『イチョウ奇蹟の2億年史』 イチョウは2億年の歴史をもつ樹木の「生きた化石」である。いま日本では千年を得た大木もあり、街路樹として55万本も植えられている。このイチョウの生物学から文化歴史について、かつて英国・王立キュー植…

井田朋宏『障がい者スポーツ50年』

井田朋宏『障がい者スポーツの50年』(『スポーツゴジラ』第25号) 今日10月10日で東京オリンピック50年である。それは東京パラリンピック50年でもある。シドニー・パラリンピック陸上日本代表監督だった井田氏が、その変遷を『スポーツゴジラ』…

川田順造『<運ぶヒト>の人類学』

川田順造『<運ぶヒト>の人類学』 長年アフリカで、人類学のフィールドワークを行ってきた川田氏による、物を運ぶ身体技法の文化人類学の考察であり面白い。いま東京で見ても、バックやリュクサック、車輪付きキャリアバック、ベビーカー、トランク、ランド…

『短編で読むシチリア』

『短編で読むシチリア』 沖縄文学やアイルランド文学があるように、シチリア文学もある。シチリアは「紙の島」と言われるほど多くの作家を生んだ。シチリアはエトナ火山の地であり、地震島である。 その歴史はカルタゴ、ギリシア、ローマからアラブ、ノルマ…

オリバー・ストーンら『よし、戦争について話をしよう。戦争の本質について話をしようじゃないか!』

オリバー・ストーンら『よし、戦争について話をしよう。戦争の本質について話をしようじゃないか!』 ストーン監督の『プラートン』『7月4日に生まれて』をかってみて、米国のベトナム戦争の残酷さを思い知ったことがある。そのストーン監督が2012年テ…

マッツァリーノ『誰も調べなかつた日本文化史』

パオロ・マッツァリーノ『誰も調べなかった日本文化史』 イタリア生まれの日本文化史家・戯作者マッツァリーノ氏の独創的な日本文化史・庶民史である。小さな具体的な事象から、日本文化を捉えている。土下座ブームや「先制」という呼称、クールビズとネクタ…

チェンバレン『馬の自然誌』

J・E・チェンバレン『馬の自然誌』 競馬で競争馬が走るのを見ると、心が躍る。人馬一体になった美しさを感じる。チェンバレンはカナダ・トロント大学名誉教授だが、祖父がアルバータ州の牧場主だという。古代から現代まで、中国文明やモンゴル大平原、さら…

カー『ニッポン景観論』

アレックス・カー『ニッポン景観論』 カー氏は、1964年の東京オリンピックの時12歳で、父の転勤で米軍基地に暮らした。70年代前半イェール大学で日本文化を学びながら、徳島県祖谷の古民家にほれ込み、住むようになる。日本の田園風景や京都の町並み…

三浦展『新東京風景論』

三浦展『新東京風景論』 東京オリンピックの高度成長期に、東京には数多くの高速道路が創られた。歴史的建造物の日本橋に高速道路が覆いかぶさった。いままた歴史的建造物の国立競技場を破壊し、神宮の森に巨大な無機質な競技場が建造されようとしている。三…

岩切友里子『国芳』

岩切友里子『国芳』 江戸末期の浮世絵師・国芳の「人をばかにした人だ」(1847年)という戯画は、沢山の人体を集めて顔を描いている。私はこの絵を見て、16世紀のマニエリスムの画家アルチンボルドの動物や野菜で構成された肖像画を連想した。(ホッケ…

朝日新聞特別報道部編『原発利権を追う』

朝日新聞特別報道部編『原発利権を追う』 電力をめぐるカネと権力構造を明らかにしたニュー・ジャーナリズムの傑作である。東京地検も匙を投げた「電官政複合体」の存在を、新聞記者の取材で明らかにした仕事に敬意を表したい。いま歴史の関係者から話を聞き…

バルザック『オノリーヌ』

バルザックを読む(8) バルザック『オノリーヌ』 バルザックの時代19世紀のフランス貴族社会では、結婚は家柄と財産が重視され、男社会であったため、妻の立場は弱かった。バルザックは、女性の立場を擁護し、結婚制度の矛盾を描いた小説が多い。この「…