山根一眞『「はやぶさ2」の挑戦』

山根一眞『「はやぶさ2」の大挑戦』

     小惑星探査機「はやぶさ」が、小惑星イトカワの微粒子を60億キロの宇宙航海から持ち帰ったのが、2010年だった。2014年11月30日に「はやぶさ2」が、地球から3億キロ離れた小惑星「1999JU3」に再びサンプルを求め、6年間の旅に出る。(天候不順で延期、12月3日打ち上げ)。
     山根氏は、かつて「はやぶさ」の開発から帰還までの7年間を記録したノンフィクションを書いた。この本でも「はやぶさ2」が、1号の技術的反省の基に改良に苦闘し、出発に漕ぎつけたかを、宇宙航空研究開発機構が全国から招致したチームの多くの科学技術者のインダビューをまじえ、丹念に描いている。
はやぶさ」1号で壊れたイオンエンジンをいかに改良していくかの苦労は、コストと重量制限のなかで行われ、数々の技術的発見の経過は、宇宙工学の省エネとともに重要なものである。
     今回のミッションの目玉は、水と有機物質を含む地下物質を採取しサンプルを持ちかえることだ。生命の起源に迫る。山根氏の本では、爆弾を詰めた衝撃装置を、小惑星に打ち込み、クレーターを作り地下から採取する装置をいかにつくり、安全に運び発射するかの技術の苦労が描かれている。
     太陽の熱や風に影響されない地下物質を、人工クレーターを作り取り出し、太陽系の形成だけでなく、生命の起源まで探索しようという壮大なミッションである。惑星形成論が専門デプロジェクトサイエンティストの渡邊誠一郎氏は、この本の中で、微惑星という小型の天体が衝突を繰り返し惑星が出来たという標準モデルを実証するためにも、小惑星の衝突メカニズムを探究するのは重要と述べている。
     アメリカの火星探査機が1兆円かける大企業だとすれば、日本の「はやぶさ」は200億円ほどの中小企業である。町工場的先端技術(ロボットとしての探査機)が、いまやアメリカより小惑星研究では一歩先んじているというのも、「はやぶさ」の人気の一因かもしれない。(講談社