高木昌史『ヘルダーリンと現代』

高木昌史『ヘルダーリンと現代』

     ドイツの詩人・ヘルダーリンは、フランス革命期に多くの詩や戯曲を作り、後半生36年間ネッカル河畔の塔に狂気のため閉じこめられ、19世紀半ばに死んだ。
     ヘリダーリン評価は20世紀に入っても高く、高木氏は詩人たちや現代思想家たちの証言や解釈、さらに現在の影響など綿密に収録しながら、再評価の今日的意義を論じていて力作である。
     この本には詩集も翻訳されている。「暗い木蔦の中に私は座っていた、森の/入口で。その時、金色の真昼が/泉を訪れながら、アルプスの/階を降りてきた」から始まる長詩「ライン河」は、ギリシア合唱詩人ピンダロスに影響を受け、多層的・並列的に詩句が歌われ、ドイツを流れゆくライン河に、ルソーの自然精神と、共和国の自由精神を重ねて歌っていて、私は好きな詩だ。
     高木氏は、2010年までの「ヘルダーリン年鑑」など最近の研究動向をもきちんと押さえている。「自然」ではラインやネッカル、ドナウなど河流詩人の面を、「時の霊」では、フランス革命やナポレオン、さらの親友でドイツに共和国を樹立しようとして投獄されたシンクレアについて考察している。
   、「詩学」ではギリシア古代との関わりを、「地理」ではアジアへの憧憬を、「塔」では晩年のシンボルである塔幽閉を論じている。塔で造った詩「「生の半ば」ではこう歌う。「悲しいかな、何処に私は摘めばいいのか、/冬ともなれば、花々を/太陽の輝きを、/そして大地の影を/壁は言葉なく/冷たく立ち尽くす。風の中、」
     ヘルダーリン現代思想では、ニーチェディルタイハイデガーベンヤミンアドルノヤコブソンらが、いかにヘルダーリンを捉えたかが論じられていて興味深い。(青土社