ブキャナンら『赤字の民主主義』

ブキャナン/ワグナー『赤字の民主主義』

     ノーベル経済学賞受賞のブキャナンの古典的名著で、1979年に翻訳されたが、2013年ブキャナン氏が死去し、今年再翻訳された。70年代先進国でケインズ政策を採ったため、財政赤字が急増したことに対する公共選択論からの批判経済学の書である。
     アメリカの財政危機がオバマ政権を揺るがし、日本でも国債増大、予算膨張、財政危機という「財政赤字」「通貨の膨張」「公的部門の拡大」の21世紀に、人口減少時代、高齢化時代の将来に、いかに対処するのかという現代性もあり、ぜひ読みたい本である。
     ブキャナン氏は、戦後アメリカの財政危機は、ケインズ経済学の政策を政治が採用したというケインズ批判を強く主張している。だが、それは新自由主義市場経済の「小さい政府」主張ではない。公共選択論であり、あくまでも財政健全化を民主主義社会で、いかにおこなうかの主張なのである。財政投入により、完全雇用とインフレの関連がどうなるのかの分析も重要であう。
     民主主義社会では、選挙民は好景気を望み、増税に反対し、雇用安定、物価上昇反対の根強い要求があり、政治家は当選するために、どうしても予算縮小は主張できない。ブキャナン氏は、いかに後世の子孫の負担になる借金(国債)でなく、課税による均衡予算で国家財政を規則化するかを、ルール化するアメリ憲法改正という制度改革まで踏み込んでいく。
     ブキャナン氏は。経済成長により税収が増加し、国債の利払いを上回れば、財政収支が改善するというのは「赤字ギャンブル」だと排斥する。また、政府が財政健全化をせず、国債中央銀行(日銀)が「異次元緩和」として買い続ければ、インフレになるという指摘も重い。民主主義社会を維持するためには、財政健全化を国民が理解していかなければと、ブキャナン氏はいうのである。(日経BP社、大野一訳)