スーザン・ジョージ『金持が確実に世界を支配する方法』

スーザン・ジョージ『金持が確実に世界を支配する方法』

     架空の富裕層の作業部会による架空報告書の形をとり、世界1%の富裕層が、富と権力で世界支配をいかに確実にするかの、必勝戦略を書いている。原題は「民主主義をお払い箱にしろ」である。1976年出版された『なぜ世界の半分が飢えるかー食糧危機の構造』の筆者だけあって、強烈な風刺作品の形をとっているが、世界が極端な貧富の格差社会に成ってきている複合危機を見事に抉り出している。
     始めに世界第三位の大富豪で投資家のウォーレン・バフェットの「階級闘争があるといいたければいってもいいが、戦いを仕掛けているのは金持階級のほうで、勝利は目前だ」という言葉がひかれている。バフェットは富裕層への増税論者だが、すでに民主主義や人権さらに社会福祉は落ち目であり、新自由主義体制は勝利しつつある余裕さえある。
     ジョージは単に風刺で書いているのではなく実証的である。リーマンショク以後の富裕層への吉報を勝利寸前という。それは、政治資金を使っての銀行、銀行家、トレーターの華麗な復活であり、増殖する金融商品であり、繁栄を謳歌すきタックスヘブン(富裕層の租税回避国)であり、超富裕層の増加があげられている。
     啓蒙主義モデルの民主主義や人権、立憲主義福祉国家は没落寸前であり、新自由主義経済・エリート主義モデルは勝利しつつあることが、アメリカやEUを中心に実証されていく。富裕層における減税は、投資の拡大を保証し、雇用創出させ、貧困は自己責任でありといった考えを浸透させる「文化価値観」も成功したという。
     訳者の荒井雅子氏はアイルランドの貧窮を強烈な風刺で描いたスウィフト『奴婢訓』に通じるというが、読んでいて次第に怖くなってくる本である。ブラックユーモアさえ感じる。オーエル『1984年』のようなディストピアの未来世界が見えてくる。(岩波書店、荒井雅子訳)