2013-01-01から1年間の記事一覧

フィンチ『ポップ・アート』

クリストファー・フィンチ『ポップ・アート』 フィンチ氏によれば、ポップ・アートは、他の現代美術のような目的と業績を目指す芸術活動ではないという。受容の芸術であり、これまで美術の世界で除外されてきた日常世界でのオブジェ(事物、日用品、廃品まで…

ウォード『恐竜はなぜ鳥に進化したのか』

ピーター・D・ウォード『恐竜はなぜ鳥に進化したのか』 二酸化炭素の濃度の上昇による地球温暖化状態の到来という高温の夏を過しながら、ウォードの本を読むと、その壮大な進化の歴史が迫力をもって迫ってくる。ウォード氏の仮説は、進化も絶滅も、酸素濃度…

久保田淳『富士山の文学』

久保田淳『富士山の文学』 富士山を扱った文学作品を「万葉集」から、武田泰淳「富士」武田百合子「富士日記」まで網羅した日本文学史である。久保田氏は、前にも「隅田川の文学」で隅田川にかかわる文学を描いているから、地域空間の視点からの文学史に造詣…

ジェイコブセン『ハチはなぜ大量死したのか』

ローワン・ジェイコブセン『ハチはなぜ大量死したのか』 21世紀になってアメリカやヨーロッパの北半球で四分の一のハチが消えた。巣箱を開けても働きハチはいない。残されたのは女王蜂と蜂蜜だけ。この現象は「蜂群崩壊症候群」と名付けられた。ジェイコブ…

武藤浩史『ビートルズは音楽を超える』

武藤浩史『ビートルズは音楽を超える』 英文学者が、イギリス文化史の土壌からとらえた面白いビートルズ論である。ビートルズをイギリス20世紀の階級横断的な大衆教養主義の新興メディアの影響から捉えようとしている。中産階級というよりは、日本でも一時…

堀辰雄『風立ちぬ』

堀辰雄『風立ちぬ』 宮崎駿監督のアニメ「風立ちぬ」に刺激され、堀辰雄の小説を読む。この小説は「愛と死」の物語とも、「喪失と再生」の物語とも読める。筋は単純で、妻(許嫁かも)が病魔に犯され、八ヶ岳の見える高原の療養所にはいり、夫が付きそい看病…

小山真人『富士山』

小山真人『富士山』 信仰の対象と文化の源泉として世界文化遺産に富士山が決まり、登山者も増えている。だが自然遺産としての富士山がなおざりにされているという危機感をもった火山学者・小山氏の本は、富士山の形成史から説き起こしながら、富士山の風景論…

竹内敬二『電力の社会史』

竹内敬二『電力の社会史』 今や日本は原発の「廃炉の時代」に入ろうとしているという。(朝日新聞「GROBE」7月21日付)この竹内氏の本は、長年にわたり原子力、環境、エネルギーを取材してきた新聞記者が、日本のエネルギー政策の特異性と、東電など「9…

ベントン『生命の歴史』

マイケル・J・ベントン『生命の歴史』 生命の発生から人類誕生までの40億年の歴史を描いた本は数多くある。ベントン氏の本の特徴は、地質学や、地球物理学、同位元素化学だけでなく、分子生物学やDNA分析による分子時計や分子系統学、分岐分類学まで総合的…

芹田健太郎『日本の領土』

芹田健太郎『日本の領土』 国家の領土・領海はあくまでも人為的なものである。20世紀アフリカや中近東などでは、植民地からの独立の際に人工的に国境線が引かれる。だが古い国々では、過去からの先占から、戦争や侵略などで領土の国境が、歴史的に決められ…

ワアグナア『さすらいのオランダ人・タンホイザア』

ワアグナア『さすらいのオランダ人・タンホイザァ』 ワーグナーの生誕200年になる。この2作はワーグナーの初期の歌劇である。だがその後のワーグナーの歌劇の特徴が早くも出ていて私は好きである。どちらも中世ドイツの伝説をもとに、歌劇化されている。…

ゴルドーニ『珈琲店・恋人たち』

ゴルドーニ『珈琲店・恋人たち』 18世紀バロック演劇の喜劇作品で、ヴェネチィアの劇作家ゴルドーニのドラマである。田之倉稔にいわせると、バロック演劇は「流動性」と「移ろいやすさ」が特徴で、「軽さ対重み、時間対永続」の対立を扱い、変身や二重性を…

サルトル『自由への道』(その3)

サルトル『自由への道』(その3) 第三部「魂の中の死」 第四部「奇妙な友情Ⅰ) この小説は、フランス20世紀を描いている。世界大戦、敗北、占領、捕虜収容所、コミュニズムと党、レジスタンスが様々な手法で、全体小説の構想で書かれている。だが、長編…

西内啓『統計学が最強の学問である』

西内啓『統計学が最強の学問である』 京都府立医学大が、高血圧治療薬ディオバンの効果を調べた臨床研究論文に、データ操作による効果水増しがあったという調査結果を発表した。おまけにデータの統計解析をしたのが、販売元の製薬会社ノバルティスの社員だっ…

ルルフオ『ペドロ・パラモ』

ファン・ルルフォ『ペドロ・パラモ』 20世紀中葉・メキシコの作家・ルルフォの今や古典となった傑作小説である。メキシコ近代の風土が色濃く反映されている。70の断片の連環で、過去と現在、生と死が、綯い交ぜになって、終末が最初に戻る円環小説である…

豊下楢彦『「尖閣問題」とは何か』

豊下楢彦『「尖閣問題」とは何か』 尖閣問題は、複合的な問題が累積して、いまや日中の摩擦の最大の問題に発展してしまった。豊下氏の本を読むと、尖閣問題とは海底石油資源問題であり、日米安全保障問題であり、植民地・歴史認識問題であり、領土問題でもあ…

加藤征治『リンパの科学』

加藤征治『リンパの科学』 人間の体液は、血管とリンパと脳骨髄液の三つがある。これらの体液は、加藤氏によれば臓器内の細胞の水分や老廃物など排出を行い、循環によって生命の恒常性を維持しているという。リンパは「白い血液」とか「第二の体液循環系」な…

円谷英明『ウルトラマンが泣いている』

円谷英明『ウルトラマンが泣いている』 ウルトラマンの特撮映画を作り出した円谷英二の孫・英明氏が、創業者一族がいかに失敗し、円谷プロから追放され没落していったかを述べた本である。7歳の英明氏が1966年に、命がけの特撮現場を初めて見学し衝撃を…

大川玲子『イスラーム化する世界』

大川玲子『イスラーム化する世界』 イスラーム教では、聖典『クルアーン(コーラン)』の解釈は、ウラマーという宗教学者が権威をもち、伝承主義に基づき厳密にされてきた。この伝承主義にたいして、さらに原初のクルアーンを教条的に解釈する「原理主義」が…

シュローサー『ファストフードが世界を食いつくす』

エリック・シュローサー『ファストフードが世界を食いつくす』 マクドナルドなどファストフード・チェーンは、安価で均質な食べ物をグローバルに供給し、雇用も生み出している。だがシュローサー氏は、その利益が社会的損失を生み出していることを告発してい…

月村太郎『民族紛争』

月村太郎『民族紛争』 1989年から2009年にかけて国際社会において、武力紛争は130件起こっている。そのうち国家間戦争は8件に過ぎず、民族紛争など非国家アクター同士がほとんどという。月村氏は民族いう文化的共同体の紛争6事例を取り上げてい…

城山三郎『そうか、もう君はいないのか』

城山三郎『そうか、もう君はいないのか』 長年連れ添った妻が自分より先に亡くなる時、老年をむかえている夫の喪失感は深い。 城山氏のこの手記は、68歳の時にガンで死んだ妻との出会いから、長年の結婚生活を、自分史を交えながら、描いていく。その7年…

鈴木翔・本田由紀解説『教室内カースト』

鈴木翔・解説本田由紀『教室内カースト』 6月21日国会で「いじめ防止対策推進法」が成立した。いじめ対策が法制化でどのくらい出来るかは未知数である。だが、いじめの根源には生徒間の「地位」や「序列」という「スクールカースト」があるという鈴木氏の…

サルトル『自由への道』(その2)

サルトル『自由への道』(その2) 第二部「猶予」 「猶予」は、1938年9月23日から30日まで、第二次世界大戦勃発がミュンヘン会談で、一時猶予される時期を描いている。チェコへのヒットラーの領土要求に始まり、フランスでも動員が始まる。マチウ…

秋田茂『イギリス帝国の歴史』

秋田茂『イギリス帝国の歴史』 いま世界経済システムは、環大西洋圏からアジア太平洋圏に移りつつある。歴史研究でも世界の諸地域の比較や関係性を重視する新たな「グローバルヒストリー」が注目されている。秋田氏はその視点でイギリス帝国の長期の18世紀…

倉本一宏『藤原道長の権力と欲望』

倉本一宏『藤原道長の権力と欲望』 ユネスコの「世界記憶遺産」に、「慶長遣欧使節関係資料」と平安時代・摂関政治時代の藤原道長の自筆日記「御堂関白記」が登録された。倉本氏はこの「御堂関白記」を詳細に読んで現代語訳を成し遂げ、この本では道長という…

中島岳志『秋葉原事件』

中島岳志『秋葉原事件』 2008年6月秋葉原で無差別殺人事件を起こした加藤智大の軌跡を、生い立ちから事件まで取材し、裁判証言も丹念に傍聴し、なぜ事件を起こしたかを綿密に描いたノンフィクションの傑作である。当時「派遣切り」と「ネット掲示板」さ…

塩野七生『最後の努力』(「ローマ人の物語13巻」

塩野七生『最後の努力』(「ローマ人の物語」第13巻)3世紀末から4世紀にかけて、ローマ帝国再建立ち上がったディオクレティアス帝とコンスタンティヌス帝の時代を描いている。塩野氏によると両皇帝により、ローマ帝国は別の帝国に変わり、あと百年たら…

村上春樹『若い読者のための短編小説案内』

村上春樹『若い読者のための短編小説案内』 村上氏はアメリカ文学の翻訳者であり、40歳まで日本の小説をあまり読まなかったという。この本もアメリカの大学での日本短編小説の案内だが、村上氏の日本の小説観がでているし、村上文学の創作の在り方も見て取…

ガルブレイス『悪意なき欺瞞』

ガルブレイス『悪意なき欺瞞』 ガルブレイスの最晩年の経済エッセイで2004年に出版され、その2年後に死去した。経済学の通説と現実の間の溝が、金銭的利益のためいかに見えなくなり、あたかも真理のようにみせる「悪意なき欺瞞」をあばこうとしている。…