竹内敬二『電力の社会史』

竹内敬二『電力の社会史』
 今や日本は原発の「廃炉の時代」に入ろうとしているという。(朝日新聞「GROBE」7月21日付)この竹内氏の本は、長年にわたり原子力、環境、エネルギーを取材してきた新聞記者が、日本のエネルギー政策の特異性と、東電など「9電力・地域独占体制」が既得権益擁護のため、戦後電力政策の敗北である福島原発事故まで行き着いたかを、戦後60年の歴史を辿りながら明らかにした力作である。
 日本は1911年「旧電気事業法」で電力会社は、早い時期から自由競争市場だった。戦後国策民営という「9電力・地域独占」体制ができ、60年間変わらなかった。それが、原子力の過度の依存、電力自由化を拒む地域独占、発送電一貫体制を作り出し、極端に少ない自然エネルギーや、家庭の電気代の高料金を既得権益として、擁護してきた歴史が、綿密な取材で描き出されている。
 特殊な日本の原子力推進体制も分析されている。私が興味深かったのは、、原発の使用済み燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、高速増殖炉で使う「核燃料サイクル」が、欧米各国で経済効率性もなく、核拡散の危険で撤退したのに、なぜ日本は路線を変えないのかが、竹内氏の電力業界の利権と核大国の政策の融合にあるいう視点である。
 1990年代以後、世界は電力自由化に入った。、日本でも2000年代に入り三次にわたり自由化に取り組むが、経産省電力自由化核燃料サイクル見直しを推進しようとしたが、電力会社と対立し、電力会社に妨害され敗れていく過程は、迫力がある描写である。表面は自由化しても、内実は送電線分離をしないとか、自然エネルギー参入をサボタージュするとか、東電権力の凄さがわかる。
 福島事故以後も詳しく書かれている。竹内氏は、最初から東電を破綻処理し、事故処理、賠償はすべて、日本という責任で、国が覚悟を決めて国民に説明して行うべきだと考えている。東電は年間売り上げ5兆円の巨大企業で、その経営体質や隠蔽主義、財務調査などを見ると、竹内氏の主張に納得出来る。今後の脱原発自然エネルギー増、電力自由化は、世論と制度の組み合わせだという考えも当然だろう。電力改革は社会改革でもある。補章「チェルノブイリ事故の日本への教訓」も重要な文章で、福島事故にも当てはまることが多い。(朝日新聞出版)