円谷英明『ウルトラマンが泣いている』

円谷英明『ウルトラマンが泣いている』
 
 ウルトラマンの特撮映画を作り出した円谷英二の孫・英明氏が、創業者一族がいかに失敗し、円谷プロから追放され没落していったかを述べた本である。7歳の英明氏が1966年に、命がけの特撮現場を初めて見学し衝撃を受けた書き出しから、円谷プロの社長まで成り、中国進出まで試みながら失敗し、一族は株など資産を売り企業買収され、英明氏は、いまやブライダル会社の運送者になり、父やスタッフとかって楽しんだ海釣りを孤独に行う終末までの、半世紀の歴史が書かれている。私は、偉大な祖父を継げず没落していくトーマス・マンの小説『ブッデンブロークの人々』が連想された。
 円谷商法は、玩具やお菓子などをキャラクター商品として販売したり、ウルトラマンショーなどを開催したりして著作権ビジネスを行うとともに、映像制作やアニメ制作のコンテンツ産業として、世界的に有名だった。その経営は、初代社長の英二から息子と孫とで8代の社長を勤めた同族経営だった。だからお家騒動的な問題はあったが、英明氏は同族経営が問題でなく、叔父のワンマン経営が問題だったと述べている。
 コンテンツ産業の場合、円谷プロのような制作技術集団は下請け中小企業であり、大資本(東宝)や、玩具産業(バンダイ)やTV局(TBSテレビ)によって操作されやすく、特撮のようなCGでないアナログでは制作費が嵩み、赤字化しやすい。同族ワンマン経営は、放漫になりやすい。この本を読んでいても、制作がキャラクター玩具商品主義で、いかに歪められていくかがわかるが、収入のためにどうしょうもない。
 ハリウッドやタイ、中国への海外進出も、綿密な文化的違いや、産業経済・政治状況の調査がなされずに、流行に流されて行なってしまう危うさを感じる。円谷プロが広告コンテンツ会社に買収され、円谷一族が追放されていくかは、英明氏だけの言い分では真相はわからない。またいまも続く海外進出に伴う訴訟合戦も、当事者でないとわからない複雑さがある。
 7月10日付「朝日新聞」では、円谷プロ創立50周年の記念にウルトラマン切手が発売されたと報じていた。同時に放映されるウルトラマンギンガの全面広告も掲載されていた。地下の円谷英二は、こうした動きをどう見ているのだろうか。(講談社現代新書