芹田健太郎『日本の領土』

芹田健太郎『日本の領土』

 国家の領土・領海はあくまでも人為的なものである。20世紀アフリカや中近東などでは、植民地からの独立の際に人工的に国境線が引かれる。だが古い国々では、過去からの先占から、戦争や侵略などで領土の国境が、歴史的に決められていく。20世紀後半になって、やっと国際法が重要視されてきた。芹田氏は国際法学者として、国際人権法や領土・領海法の権威である。この本では、日本の領土の変遷を明治近代から辿り、さらに第二次世界大戦後の対日平和条約を中心に歴史的に描いている。その上で、各論として、北方領土尖閣列島竹島を取り上げている。また領海と排他的経済水域国際法を基盤に綿密な分析をしており、読み応えがある。
 第二次世界大戦における領土の放棄をどうとらえるかも重要である。例えば対日平和条約の放棄領土の「千島列島」に、歯舞諸島色丹島、国後、択捉は含まれていないという日本側の解釈がある。尖閣竹島はさらに近代以前にまでさかのぼり、国家同士が領有権を主張しているのは、なぜかも解明されている。
 だが、そうした歴史や国際法の研究のもとに、芹田氏が冷静に、大胆に東アジアの安定と共生のために、行っている提案が重要である。芹田氏は、先ず尖閣列島の自然保護区設定と、大陸棚共同開発の一括処理を提案している。領有権のみを主張するのではなく、かって乱獲でいなくなったアホウドリを保護し、漁業資源の調査と保護をし、その上で領海を設けず3カイリまたは12カイリの漁業禁止区域を設ける。日・韓・台の3国は、排他的経済水域は35−52カイリにし、その沖合は共同水域にする。
 竹島は、和解の印に韓国に譲渡または放棄し、韓国主権を認める代わりに、資源管理のため鬱陵島隠岐諸島を基点として排他的経済水域の境界策定を行う。竹島は自然に戻し、自然保護区として12カイリの漁業禁止水域にし、世界総ての科学者に開放するという提案をしている。領土問題を地球環境問題という高次の解決策で捉えるのが。新鮮である。
 冷静で考える必要のある提案である。ただし九州や島根、鳥取などの漁業者への救済措置が必要だと思う。このまま領有権問題で膠着状態が続くのは、日、中、韓のいずれの国でも、打開がますます困難になるからだ。(中公文庫)