加藤征治『リンパの科学』

加藤征治『リンパの科学』

 人間の体液は、血管とリンパと脳骨髄液の三つがある。これらの体液は、加藤氏によれば臓器内の細胞の水分や老廃物など排出を行い、循環によって生命の恒常性を維持しているという。リンパは「白い血液」とか「第二の体液循環系」などといわれているが、まだは血管に比べ盛んでなく、最近増えている「リンパ浮腫」や「ガンのリンパ節転移」など病態解明に不明な点が多いという。
 その理由を加藤氏は血管に比べリンパ管の観察が難しい事を挙げている。血管は心臓のポンプ作用で全身に流れるが、リンパはその周囲の筋肉の動きや自発的収縮で弁が開閉して、ゆっくりと流れが生じるからわかりにくい。また形も不規則であり、毛細リンパ管も複雑に入り組んでいる。確かに加藤氏の本を読むと見えざるリンパ管をいかに見つけ出していくかが、リンパ学の始まりだったとわかる。
 リンパの流れが滞るとむくみが生まれ、「リンパ浮腫」になる。先天性もあるが、やはりガンの手術や放射線治療の後遺症として起こりやすい。腕や足がむくみ、歩行困難になるし、免疫機能も低下する。いまは理学療法士などのマッサージが主な治療法だが、21世紀になって浮腫治療に全面的に取り組もうという試みも出てきている。
 リンパといえば、生体防御の機構である免疫との関係が重要である。加藤氏の本でも「ミクロの戦士・リンパ球」という項目で、リンパの流れと免疫反応を取り上げている。免疫学校としてリンパ球を育て全身に流す元締めが「胸腺」で、リンパの濾過装置がリンパ節だという説明はわかりやすかった。免疫細胞であるリンパ球は、血管系からリンパ管系の二つの交通路を通じて体内を活発に移動するが、これを「リンパ球の渡り鳥行動」という。 私が不思議に思ったのは、ガン細胞とリンパは相互に親和性があり、そのためガンのリンパ節転移が容易に起こるという説明である。加藤氏によれば臨床的に早くから知られていたが、そのメカニズムは、まだ完全に解明されていないという。早く解明されることを祈って読了した。(講談社ブルーバックス