2013-01-01から1年間の記事一覧

リルケ『マルテの手記』

「単独者の文学を読む」②リルケ『マルテの手記』 「単独者の文学」である。そこには孤独と死と敗残が満ち溢れている。またリルケ的な「愛」の観念も。マルテが、リルケ自身のように、生まれたチエコ・プラハの故郷・家族・文化伝統から逃れ、世界各地を放浪…

パウル・ベッカー『オーケストラの音楽史』

パウル・ベッカー『オーケストラの音楽史』 ベッカーといえば『西洋音楽史』(河出文庫)という名著がある。この本は1936年に書かれたもので、オーケストラと作曲家の関わりを、ハイドンからストラビンスキーまで200年の歴史を、音楽だけでなく広い西…

フェリエ『フクシマ・ノート』

ミカエル・フェリエ『フクシマ・ノート』 私はこの本を読んで、大江健三郎氏の『ヒロシマ・ノート』(岩波新書)に匹敵する東日本大震災と福島原発の思索的ルポを持ったと感じた。それも20年日本在住のフランス人作家によって。また関東大震災を記録した当…

青木美智男『小林一茶』

青木美智男『小林一茶』 青木氏は日本近世史の歴史学者だが、一茶の俳句に「世直し」という言葉がしばしば出てくるのに興味をもち研究を始めた。一茶はメモ魔というほど、膨大な日記、書簡、全国俳諧仲間との交流記録、作品収集さらに読書・学習記録を残して…

山崎亮『コミュニティデザインの時代』

山崎亮『コミュニティデザインの時代』 孤立死や無縁社会といわれ、つながりが分断された社会になりつつあるという。人口減少社会や高齢化社会により中山間離島地域では、限界集落も問題になってきている。「つながり」を作り出す社会が、新しい公共として求…

ギッシング『ヘンリ・ライクロフトの私記』

「単独者の文学を読む」① ギッシング『ヘンリ・ライクロフトの私記』 私にとっては、ライクロフトは老後の理想である。南イングランドの田園に隠棲し親戚の遺産(年金生活)で悠々自適の生活をおくり、家政婦一人に家事を任せ、散歩と読書三昧に耽る。おひと…

五十嵐敬喜『「国土強靭化」批判』

五十嵐敬喜『「国土強靭化」批判』 五十嵐氏の本を読んで、消費税が社会保障費ではなく、公共事業費に使われる仕掛けが、消費増税法の附則八条二項に明記されているのを知った。「事前防災及び減災等に資する分野に重点的に配分する」という条項である。五十…

開沼博、山崎亮ら『ニッポンのジレンマ ぼくらの日本改造論』

開沼博、山崎亮ら『ニッポンのジレンマ ぼくらの日本改造論』 この本はNHKEテレ「ニッポンのジレンマ」における討論を収録したものである。1970年代以降生まれの「失われた世代」の学者たちが、東日本大震災の「復興論」と日本の「地域活性化作戦」…

佐々木敦『ニッポンの思想』

佐々木敦『ニッポンの思想』 ゼロ年代末に書かれた「ニューアカ以降の現代思想の歴史教科書」と佐々木氏がいう本だが、今読んでみても80年代からの日本思想の流れが良くわかる。 80年代ニューアカの浅田彰、中沢新一から柄谷行人、蓮見重彦、90年代の…

国分功一郎『来るべき民主主義』

国分功一郎『来るべき民主主義』 東京・小平市に住む哲学者の国分氏が、たまたま小平市の雑木林480本を伐採し、200世帯以上の民家を立ち退きさせ、200億円の税金を使う巨大道路(都道328号線)建設の説明会に行き、なにかおかしいと実感したとこ…

ファーガソン『劣化国家』

ニーアル・ファーガソン『劣化国家』 なぜ西洋は衰退したのかを、ハーバート大・ファーガソン歴史学教授が分析している。教授は、民主主義、資本主義、法の支配、市民社会の4つに絞って制度的衰退を論じている。私はファーガソンの本を読んで、英国のバーク…

合田正人『田辺元とハイデガー』

合田正人『田辺元とハイデガー』 1980年代には哲学者・中村雄二郎氏らにより西田幾多郎の哲学の再評価が行われた。21世紀にはいって、中沢新一氏が『フィロソフィア・ヤポニカ』(集英社)を書くなど、田辺元の再評価が出てきている。中沢氏はこう書く…

「ウルフを読む」(その2)『ダロウェイ夫人』

「ヴァージニア・ウルフを読む」(その2) 『ダロウェイ夫人』 怖い小説である。そこには生と死、正常と狂気がない交ぜになっている。その縦軸は「時間」であり、人生における若さの始まりの「青春」と、老年にさしかかる「中高年」が、ない交ぜになってい…

「ウルフを読む(その1)」『灯台へ』

「ヴァージニア・ウルフを読む」(その1) 『灯台へ』 この小説は、時間の流れを、それぞれの人物の心理的印象という「意識」の流れの集積で描いている。舞台は、中流知識階級であるラムゼイ家の島の別荘である。離れたところに灯台のある離島があり、一家…

ピーター・ゲイルほか『放射線と冷静に向き合いたいみなさんへ』

R・ピーター・ゲイル&エリック・ラックス『放射線と冷静に向き合いたいみなさんへ』 チェルノブイリ、東海村、福島など原発事故で被ばく者救護に当たったアメリカ人医師で,骨髄移植と白血病の権威であるゲイル氏が書いた放射線に関する啓蒙書である。「冷…

鈴木謙介『ウェブ社会のゆくえ』

鈴木謙介『ウェブ社会のゆくえ』 スマートフォン時代の日本のウェブ社会を分析した社会学者のウェブ論である。鈴木氏は、現実のリアル空間とウェブの情報空間が融合する時代に入っており、現実空間に情報の出入りする穴がいくつも開いている状態を「現実の多…

長谷川櫂『俳句の宇宙』

長谷川櫂『俳句の宇宙』俳人が見た現代における俳句論である。実作者である長谷川氏が、自然が失われて四季も壊れつつあるとき、「季語」はどうなるのかとか、「切字」という「間」はどうなるのか、「客観写生」は必要かなどを問いかけていく俳句に対する危…

村山司『イルカのふしぎ』

村山司『イルカのふしぎ』イルカが「賢い動物」であることは、水族館などの芸を見ていてもわかる。村山氏は20年にわたり、ヒトと会話し、文字が読めることを目指し研究してきた海洋学者である。この本にはイルカの生態が数々述べられて楽しい読み物になっ…

ベジャン&ペター・ゼイン『流れとかたち』

ベジャン&ペター・ゼイン『流れとかたち』この本は、流動がすべてをデザインするという視点で書かれている。だがデザインの本ではない。ベジャンは熱力学の工学者である。無生物のデザインも、生物のデザインも社会組織も、工学的構造物も、エネルギーを効…

E・A・ポウ『詩集』『エレオノーラ』ほか

E・A・ポウ『詩集』『エレオノーラ』ほかエドガー・アラン」ポウの詩には、「鴉」「「アナベル・リイ」「ヘレンに」「眠れる女」「レノア」など愛する美女の死を悼むものが多い。最愛の妻を失ったポウの悲しみが投影されている。また小説「リジィア」「モ…

ジョン・グリビン『銀河と宇宙』

ジョン・グリビン『銀河と宇宙』 天文学では銀河は、物理学の原子にあたる。20世紀ハッブルが巨大望遠鏡で観測するまでは、太陽系がいる我々の銀河が、宇宙全体だった。それがここ100年で、我々が属する銀河は、数千億個ある渦巻銀河の一つに過ぎず、太…

金重明『物語 朝鮮王朝の滅亡』

金重明『物語 朝鮮王朝の滅亡』在日二世の小説家が書いた朝鮮近代史である。金氏は民族のナショナリズムや愛国心からではなく、虐げられた人々の視点から歴史を見ている。私は韓流ドラマ「トンイ」が好きだが、下層民トンイが宮廷の下働きから王に見染められ…

柄谷行人『哲学の起源』

柄谷行人『哲学の起源』 柄谷氏は前著「世界史の構造」で、世界史をマルクスのような「生産様式」ではなく、「交換様式」による発展として捉えた。遊動民社会の贈与・返礼の互酬制交換様式、略取・再分配の支配保護の交換様式、商品交換の貨幣交換様式、つま…

「泉鏡花を読む」(その4)『夜叉が池』『天守物語』 

「泉鏡花を読む」(その4) 『夜叉が池』『天守物語』鏡花の戯曲は、民話的寓話の劇が多い。自然も擬人化され、その人間を相対化する妖怪も登場する。人間は卑小な存在であり、富や権力をもつ人々の既得権益の反自然性、反倫理性が批判されている。 『夜叉…

「泉鏡花を読む」(その3)草迷宮

「泉鏡花を読む」(その3) 『草迷宮』鏡花の幻想小説である。幻想とはなにか。現実世界と夢世界の宙づりの、両義性のある中間地帯に幻想は生まれる。現実と夢という超現実がない交ぜに現れる。宙ぶらりんは迷宮のような世界である。『草迷宮』の物語は、初…

「泉鏡花を読む」(その2)反戦小説

「泉鏡花を読む」(その2) 反戦小説 鏡花は第一次日中戦争(日清戦争、1894年から)を扱った反戦小説をいくつも書いている。太平洋戦争(第二次日中戦争)中に刊行された「鏡花全集」には、これらの作品は収録されていない。愛国心という集団心理への…

泉鏡花を読む(その1)婦系図

「泉鏡花を読む」(その1) 『婦系図』 この小説は「ハイカラなピカレスク(悪漢)小説」と述べたのは、種村季弘である。私には、デユマの「モンテクリスト伯」のような「倍返し」の復讐譚とも読めるし、スチーブンスンの「ジキルとハイド」の二重性格の物…

宮下規久朗『フェルメールの光とラ・トゥールの焔』

宮下規久朗『フェルメールの光とラ・トゥールの焔』 私はダ・ビンチの「洗礼者ヨハネ」を見るといつも鳥肌が立つ。暗闇から浮かび上がってくる魅惑の微笑みを浮かべた両性具有のヨハネの半身裸体の姿。画面に引き込まれそうで怖い。宮下氏によると、ダ・ビン…

白井聡『永続敗戦論』

白井聡『永続敗戦論』 第二次世界大戦でポッダム宣言を受諾してから「戦後」が始まったが、「終戦」なのか「敗戦」なのかという言葉の問題でなく、戦後の構造的問題として「敗戦の否認」を指摘するのが、白井氏の立場である。国内、アジアには敗戦の否認をし…

林浩平『ブリティッシュ・ロック』

林浩平『ブリティッシュ・ロック』 1960年代以降にイギリスで誕生したロックは「ブリティッシュ・ロック」といわれ、70年代に世界を席巻した。ビートルズから、ローリング・ストーンズ、ピンク・フロイド、キング・クリムソンなどは、多くの信者を熱狂…