豊下楢彦『「尖閣問題」とは何か』

豊下楢彦『「尖閣問題」とは何か』

 尖閣問題は、複合的な問題が累積して、いまや日中の摩擦の最大の問題に発展してしまった。豊下氏の本を読むと、尖閣問題とは海底石油資源問題であり、日米安全保障問題であり、植民地・歴史認識問題であり、領土問題でもあることがわかる。
 豊下氏は、歴史的にも国際法上でも尖閣は日本の「領土」と実証していく。70年代石油資源埋蔵の可能性から、中国・台湾が長い空白のあと、領有権を主張し始めたことも確かである。
 だが、無人島であった尖閣が、日本領土に編入されたのが、1894年の日清戦争とほぼ同時期であり、台湾の植民地化と連動していた。だから中国側が日清戦争で「窃取した」というのは、植民地主義歴史認識での、日本の「過去の克服」があいまいだったからである。竹島領有の閣議決定が、韓国併合の第一歩の第一次日韓協約と同時期の1904年だったのと同じである。たとえ論理的に日本領土だとしても、わたしたち日本人は、植民地支配の苦しみと被害者意識を、十分に理解していない。冷戦時代の日米安保思考で、米国の傘の下に隠れて、強い責任意識から逃げてしまったと思う。
 それは靖国従軍慰安婦問題とも連携していると私は思う。単なる領土問題だけではない。他者認識の問題でもある。
 豊下氏が問題視しているのは、米国の態度である。米国は施政権を日本に認めているが、領土権は、日中間で、話し合いで決定すべきという。その「中立性」の態度の裏に、豊下氏は尖閣5島のうち、大正島久場島を戦後米国軍の射爆場として現在まで確保していることに見ている。
 石原慎太郎氏の東京都購入計画でもこの2島は除外され、魚釣島、北小島。南小島の3島だけだった。占領下で米軍管理の尖閣列島は、沖縄返還後もこの2島保持は持続しており、豊下氏は、米国は中立的第三者でなく、当事国だという。とすれば、中国脅威論を振りかざす米国右派の日米安保強化による集団的自衛権問題とも関わってくる。ニクソンの米中和解のように、日本抜きで米中戦略対話で尖閣問題は解決するかもしれないとも私は思った。
 ではどうするのか、豊下氏は領土問題が存在することを認めた上で、先ず米、中、台湾、日本などで石油の共同開発という具体的問題から始め、漁業協定の締結や海上危機管理システムの構築、漁業資源の管理などを積み上げ、軍事衝突という最悪なシナリオを防止していくことを提案している。また竹島北方領土の解決策も固定観念にとらわれない大胆な解決政策を提案していて、一読の価値がある本である。(岩波現代文庫