シュローサー『ファストフードが世界を食いつくす』

エリック・シュローサー『ファストフードが世界を食いつくす』

 マクドナルドなどファストフード・チェーンは、安価で均質な食べ物をグローバルに供給し、雇用も生み出している。だがシュローサー氏は、その利益が社会的損失を生み出していることを告発している。20世紀初頭シカゴの食肉業界の問題を告発したシンクレア『ジャングル』が、この本でも取り上げられている。私はこの本を読みながら、経済学者宇沢弘文氏が自動車による公害始め、様々な社会的損失を主張した『自動車の社会的費用』(岩波新書)を思い浮かべた。
 ファストフード企業を主としているが、この本はアメリカ資本主義企業が族議員と結託し、政府の安全基準や、最低賃金などの拘束から逃れ、自由市場主義の利益・効率至上の行動をとることが、いか社会的害悪を及ぼしているかが克明に描かれている。子供を消費市場に参画させるために、マクドナルドの創設者とディズニーが親しかったうえに似ており、技術信仰と保守主義でつながりが強いという導入部から引き込まれていく。だが次第にファストフード・チェーンが、寡占資本主義になり、さらに牛肉やポテトなど食材のタテの独占的経営を目指していくことから、どのような社会的損失が生まれるかのルポは衝撃的だ。フランチャイズや専属契約という誘惑で、西部の牛の牧場主やポテト栽培の自営農家が没落していく。
 ハンバーガーの挽肉のため、巨大な流れ作業による食肉加工工場は、不法移民などの流れ労働者に過酷な過剰労働と低賃金で雇用し、組合は作らせず解雇し、労働災害が多発する。このあたりの悲惨さは牛の屠殺と同時に、労働流れ作業のあまりのスピードのため怪我が多い危険さは、私は小林多喜二蟹工船』を連想させた。ファストフード授業員を若年の非正規社員で過労労働をさせる。さらにファストフード誕生以来の肥満率の増加や、解体流れ作業の工程で牛が汚染されたり、人工飼料の影響で、0−157大腸菌サルモネラ菌の致死的食中毒の激増も指摘されている。発生した食中毒に対して、ファストフード側が政治献金などで、議会や政府の食品安全管理からいかに逃れようとしているかも、シュローサーは克明に記録している。
こうした牛肉挽肉が、学校給食に無検査で提供されていることにも驚く。また児童に対するテレビCM禁止も、ことごとく葬り去れてきたとシュローサー氏は述べている。さらに食文化が富裕層と貧困層に二極化し、貧困層がファストフード利用者になり、貧乏人の方が肥満になるという皮肉な状況にも格差社会を感じる。
シュローサー氏は,21世紀は国家権力よりも、グローバルな独占企業との戦いが、重要だと指摘している。有機牛肉の牧場栽培がアメリカで、まだ小さいが生じてきているということにも触れていて、希望がもてる。(草思社文庫、楡井浩一訳)