ベントン『生命の歴史』

マイケル・J・ベントン『生命の歴史』
 生命の発生から人類誕生までの40億年の歴史を描いた本は数多くある。ベントン氏の本の特徴は、地質学や、地球物理学、同位元素化学だけでなく、分子生物学やDNA分析による分子時計や分子系統学、分岐分類学まで総合的に取り入れていることだ。だがもっとも基本資料になる化石による古生物学の成果も重要視され、分子生物学との矛盾も書かれている。ヒトとチンパンジーの分岐は500万年前などや、ゾウとジュゴン、ツチブタ、イワダヌキ、キンモグラが同じグループなどの特定はDNA分析でわかった。
 ベントン氏は、そうした最新の研究成果を使い真核生物の発生と多細胞生物、性の誕生や骨格の獲得、陸上生態系の成立、カンブリア紀の生命爆発、ヒトの二足歩行の誕生まで40億年の主要なテーマに切り込んでいく。一つ一つ面白い。その底にはベントン氏の進化哲学がある。進化は英雄物語のような目的は伴わないし、瞬時に決まり、刹那的で降水量の変化やある種の植物の消滅、新たなウイルス出現で変化し勝利者も相対的位置でしかない。進化は停止しない。今も続き、ホモサピエンスが絶滅しても、他生物がニッチを占める。人類は進化の英雄でなく、数からいってもゴキブリや細菌の方が多いという見方である。
 私が面白かったのは、40億年の三大絶滅である。4億4000万年前のオルドビス末期、2億2100万年前のペルム紀末、6550万年前の白亜紀末。白亜紀の恐竜絶滅は隕石衝突という説が次第に確定しつつある。だがもっと凄い大量絶滅はペルム紀だという。サンゴ礁、ユミウリ、貝類など96%の種が絶滅し、たった4%の生物が生き残り、その後の恐竜時代になったというのだ。そこには大陸移動とシベリアの大噴火という地球内の地質変動があり、火山大噴火による地球温暖化で、海洋の無酸素状態が引き起こされ「温暖暴走現象」があったとベントン氏は指摘している。火山噴火の「酸性雨」も挙げられている。この大量絶滅は地球上から生態系の一翼を担うサンゴ礁と森林を消し去り、その回復に2000万年という長い時間がかかり、新たな種の時代がくる。いま地球温暖化が予測されている時代、ペルム紀絶滅は不気味な予言を教えてくれる。(丸善出版、鈴木寿志、岸田拓士訳)