鈴木翔・本田由紀解説『教室内カースト』

鈴木翔・解説本田由紀『教室内カースト

 6月21日国会で「いじめ防止対策推進法」が成立した。いじめ対策が法制化でどのくらい出来るかは未知数である。だが、いじめの根源には生徒間の「地位」や「序列」という「スクールカースト」があるという鈴木氏のこの本の主張が正しいとすれば、教室内の人間関係の複雑さと、暴力だけでなくシカトや悪い風評などの「コミュニケーション操作系いじめ」(内藤朝雄氏の言葉)をなくすことは、大変難しい。鈴木氏によれば「スクールカースト」とは、クラス内に地位の高いグループ(1軍)と低いグループ(2軍)が成立し、序列化し支配関係が生じている現象をいう。
 かつて学力による能力別クラス編成が問題になった。だがいまのスクールカーストは違う。地位の高い「上位グループ」は、にぎやかで、自己主張が積極的で、異性に人気があり、キャラとして受けがよいコミュニケーション力が派手で、運動ができイケメンで若者文化へのコミットメントも強い。他方「下位グループ」は地味で特徴がなく、静かで消極的でオタク系で、反抗せずいうことを聴くという。鈴木氏は生徒と教師に対して、インダビューと質問紙調査データで「スクールカースト」の実態に迫っていく。いまの学校内の人間関係への敏感さと、固定した階層性が浮かび上がってくる。
 私が面白かったのは、生徒間ではカースト制を支配―服従の「権力」としてとらえているのに対し、教師は積極性、リーダー性など「上位」カーストの生徒を「能力」として評価し、そのカリスマ的タレントを将来のキャリアと評価している点である。教師は上位カーストを活用し、学級経営を円滑にしていく。だからいじめに転化してもわからない。
 解説で本田氏は、現在日本の学校や学級の閉鎖的密室構造が、カースト制を強めていると指摘している。その通りだと思う。ではどうするのか。鈴木氏のアドバイスは、学級は期間限定だから自分の感情をコントロールし我慢することや、学校とは違う進学塾など別の評価する場所にいき、学校にいくことにこだわらないとかを勧めているが、ちょっと弱い。1980年代にイワン・イリッチが「脱学校論」を展開していたが、やはりその方向に向かっての教育改革が必要な時代がきたのではないかと私は思う。拙著『学校再考』『ソフトスクールのすすめ』を参考にしていただければ幸いである。(光文社新書