ショー『ピグマリオン』

バーナード・ショーピグマリオン

  ヘップバーン主演の「マイ・フェア・レディ」の方が有名だが、その原作で20世紀的言語論が主題である。ロンドン下流階層の花売り娘を、音声学のヒギンズ教授が猛特訓して、上流社会のお嬢さんに言語使用で変え、衣装や立ち居振る舞いのファッションまでも変えて成功させてしまう。英国のような階級社会では、それは難題だろう。表象文化が違うから。
   日本のように女子高校生の言語が、すぐに流行として取り入れられてしまうチョウ進歩社会では考えられない。それは方言の差異の方が日本では出身地がわかり、劇作家井上ひさしの世界に成るだろう。ショーはアイルランド出身だから、ロンドンに出て言語感覚に鋭敏になったと思える。
   この戯曲の主題は、音声学の教授がイライザに専門の音声学を使って上流社会の女性に表象を変える猛特訓をし、、イライザも階層から離脱するために奴隷的生徒にならざるを得ないという教育の支配的強制(洗脳的)の問題である。日本でも勝利するために体罰を振るう専門コーチが問題になった。確かに表象世界では成功しても、その支配的教育は生徒の人間性を傷つけていく。
   この戯曲の後半は、人間性を傷つけられたイライザが、権威的・父権的教授に反抗し、別の道を生きていくことにある。映画では教授と結ばれることが示唆されているが、ショーの戯曲では若い中流の人のよい若者フレディと結婚し、花屋を経営していく結末に成つている。この辺りが、ショーの風刺が効いていて、私には面白かった。
  英国上流社会が、表象に騙されやすく、自己の判断に弱いことの風刺も面白かった。また教授が、イライザと違わない「汚い言葉」を、いらいらしたり、怒ったりした時、つい使ってしまうのも風刺が効いていて面白かった。翻訳は大変だったと思うが、良く出来ている。(光文社古典新訳文庫、小田島恒志訳)