セルズニック『ユゴーの不思議な発明』

セルズニック『ユゴーの不思議な発明』

  ファンダジーの傑作だ。それも物語の文章が数ページ続くと、300枚にのぼるセルズニックの精密なイラストが鏤められ、無声映画のようであり奇妙な感動がある。メディア・ミックスだが、絵本性を持っているから、芸術作品ともいえる。例えばパリの街頭風景は、版画を見ているようだ。マーティン・スコセッシが映画化したのもよくわかる。
  物語が良くできている。1930年代のパリ、父親を博物館の火事で亡くした12歳の孤児ユゴーが主人公だ。パリの大きな駅舎の屋根裏に住みつき、駅の時計の修理や調整をしている。駅のおもちゃ屋で盗みを働き、店主の老人に捕まるところから物語は始まる。その老人の養女イザベルがからみ、この三人が織りなす謎が謎を呼び、読みだしたら息もつけないサスペンスが迫って来る。ユゴーの時計技術者だった父親が、博物館で見つけた「からくり人形」が大きな謎をはらむ。未読の読者のためストーリーは割愛する。
  私はこの物語のテーマは、「からくり人形」と映画の発明にあると思う。セルズニックは機械的存在論の思想がある。「世界ってひとつの巨大な機械だとおもうと楽しくなるんだ」とユゴー少年に語らせている。機械にはひとつとしていらない部品はない。ちゃんと必要なだけの数と種類の部品があり、「もし世界が巨大な機械なら、ぼくも何か理由があってここにいるに違いない」ユゴーは機械・技術少年であり、それは「マジック」を産み出していく。私はこの延長線上にロボット開発があると思う。
   だが、セルズニックの凄さは、夢を産み出す映画を重要視していることである。人間の幻想力、想像力が、夢の実現の先駆けになる。実はおもちゃ屋の老人は映画初期の「月世界旅行」を映像化したジョルジュ・メリエスだった。そこからいかにメリエスが挫折し復活してくるかが主題になる。スコセッシが映画化したとき、3D映画にしたのもよくわかる。
  こんな理屈よりも、セルズニックの豊富なイラストをみるだけでも楽しい。この文庫は見事な構成で興奮させる。(アスベクト文庫、金原瑞人訳)