松沢裕作『町村合併から生まれた日本近代』

松沢裕作『町村合併から生まれた日本近代』

 平成11年に「平成の大合併」といわれる町村合併が行われた。全国3232を数えた町村はいまや1727に減少した。明治維新以来「三大合併」といわれ、明治7年7万280あった町村が明治22年の「明治の大合併」で1万5859に減り、昭和31年の「昭和の大合併」で3975町村にへり、平成合併でさらに激減した。松沢氏は、近世江戸期の村から、明治の町村にいたる町村合併を通じて「近代」を問い直そうとしている。
  松沢氏の本が面白いのは、歴史的視点に立って、グローバル資本主義の無境界的な資本市場と、無意味で空虚だが明確な境界を線引きする国家権力との並列から、「町村合併」という「近代」を解き明かそうといしている点にある。「個人―大字―町村―郡―県―日本国」というフラットな「同心円状の世界」が出来てくるための、「境界を作る国家権力」の具体的在りようが「町村合併」にあると見る。それは尖閣列島を境界国境と決める権力まで通じている。中央集権と地方分権、自然村や行政村という二重村落論は、「中央と地方」という境界を引く権力を問わないと、真相が明らかにならないと松沢氏は指摘している。
  明治初期に経済活動の自由化、資本の境界を越えた活動と、国民統合が推進され国家帰属が重視された。松沢氏は近世江戸の「職能身分制・地縁的村共同体」のモザイク的村から、いかにして「同心円状の町村合併」が行われたかを綿密に分析していて、読み応えがある。江戸近世の相互扶助的な租税や災害時の「村請制」が、いかに「地租改正」で個人税収に変化して解体されていったかが明らかにされていく。村連合の「組合村」も解体される。
  明治の地方三法を、平成の地方分権一括法と比較して読むと面白いと思う。境界権力の国家が、「地方自治体」という自治組織を作り出すという逆説的矛盾は、明治から現代まで貫徹しているのではないかとも思う。明治期に町村連合でなく、町村合併によって「自治体」を創り出してしまう選択をもう少し詳しく知りたいと思った。「道路」と資本市場と町村合併の、相互関係をもう少し論じてほしかった。
 最近地方税の一部国税化で、地方と国の争いが、激化している。さらに来るべき人口減少社会に市町村をどう再生するかの難題も控えている。国民国家グローバル資本主義の並立は、TPPだけでなく、今後の地方を大きく変えていくと思われる。その時平成の大合併は果たして有効なのか、この本はそうした視点で読むと面白い。(講談社選書メチエ