高野潤『驚きのアマゾン』

高野潤『驚きのアマゾン』

  30年間もアマゾン上流(ペルー,コロンビア、エクアドルなど)に通い、キャンプや川下りをした体験をもつ写真家・高野氏の、貴重なアマゾンの川、森、土、生物の自然風土の記録である。いまや急速に開発で文明化しつつあるが、この本では原始のアマゾンの生態や博物誌が生き生きとえがかれている。面白い。
  高野氏によれば、アマゾンはジャガーや大蛇、大木など大きなものから、微小な昆虫類や草木などが寄り集まった生命の集合体だという。熱帯雨林の生態が、私など名前も知れない魚、蛇、昆虫などとともに明らかにされていく。その前に70年代にアマゾンの源流の川20本を、手漕ぎ用丸木舟やエンジン付きカヌアで遡下降する冒険が魅力的だった。30年前には漂流する「森の旅人」や、毒をぬった吹き矢や槍での猟や、珍しい漁法などがまだあったことがわかる。
  石の川の増水や減水の激しさ、土砂の川と岩盤の川、大段滝の凄さ、戦慄の夜の川下りと大ワニや大蛇アナコンダ・ボアの存在の描写は、迫力がある。川の中の生き物であるヨロイナマズ、毒エイであるラヤ、魚を追いかけるヘビクイカメ、鋭い歯をもつワサコ、なども描かれている。
  高野氏はどの川も森も同じものはないと指摘している。10mの高低差でも、住む生物相が違ってくる。低層界では100匹以上で動く獰猛な野ブタ類ワンガナ、ダニ、アリ、ハチにもこんなに多様な種類がいるのかと驚かされる。高層界はサルや鳥の世界である。高野氏の本を読んでいると、アマゾンはヘビの世界とも思える。10mもある大蛇から小型な様々な毒蛇の集合体である。毒蛇に刺されることの恐怖が付きまとう。
  大木を絞め殺す蔓や、倒木があり、横穴が多く、そこにヘビが多数棲息する。エリマキトカゲのようにえりを着けたヘビ、水中をすいすい泳ぐまだらヘビ、アマゾンのコルバという土はアルカリ性成分を含み、その塊に草食系動物が「土を食べる」ために集まる生態も面白い。熱帯雨林からの巨大な快音や、急に凄い悪臭などの恐怖や、原住民が語る「妖怪」などの話も、驚かされる。体験に裏打ちされた貴重な本である。(平凡社新書