大野和基インタビュー編『知の最先端』

大野和基インタビュー編『知の最先端』

 吉成真由美著『知の逆転』もそうだが、世界の知識人のインタビューは取材の準備など苦労が多く大変な仕事だと思う。この大野氏のインタビューもいま世界の先端にいる知識人へのインタビューで面白く読んだ。コロンビア大学「白熱教室」で話題になり全盲社会心理学者・アイエガー氏は著書「選択の科学」で有名だが、「選択」の仕方が文化により異なるという。日本人は経験や情報を十分集めてから選択し、失敗を恐れすぎるといい、再チャレンジを試みる寛容さがアメリカに比べて劣るという。失敗にたいする寛容さがイノベーションに繋がるが、日本の若者には、いま取り組むことで解決できるという「楽観主義」が欠如した「仕方がない」主義があると指摘する。
「歴史の終わり」を書いたフランシス・フクヤマ氏は、日本には二種類の経済があり、「輸出主導の大企業」と「守られた中小企業」、「国際的競争を勝ち抜こうとする経済」と「ひたすら競争を嫌う企業」とで、これだ規制改革を駄目にしているという。政治経済学者アセモグル氏は、国家の繁栄を「収奪的」と「包括的」に分類し、日本は「ある程度収奪的要素が残存した包括的社会」とみている。その上で、日本企業の階層性を批判し、想像力をもつ若者層を活かす組織改革が必要で、年齢よりも知識、ヒエラルキーよりもイニシアチブが必要と指摘する。
製造業の常識を破壊する「メイカーズ革命」を唱え3Dロボテックスの経営者アンダーソン氏は、非金銭的価値による開かれたイノベーションが、21世紀の企業の条件だと話す。都市社会学者・フロリダ氏もクリエイティブ・クラスという知識労働者が経済を危機から救いえるし、サービス部門をもっとクリエイティブにすべきと語る。ハーバートビジネススクールのクリステンセン氏は日本は「イノベーションのジレンマ」の最先進国だという。英国の作家カズオ・イシグロは、人は苦痛で自由がなくても自分の運命を受け入れてしまうというのが、私の世界観であると語っている。また「愛は死を相殺できる強力な力」という言葉に感銘を私は受けた。(PHP新書)