スィンバ『すごいインド』

サンジーヴ・スィンハ『すごいインド』

  スィンハ氏は、インド工科大学を卒業し、1996年に人工知能研究開発のため来日した。その後みずほ証券など勤務し、いま日本とインドを結ぶコンサルタントをしている。IT大国、グローバル人材大国になっていくインドと共に生きてきたスィンハ氏が、自分史を語りながら、インド論、インドと日本の関係論になっていて、興味深い本である。
   インドは80年代までは国家統制経済で貧しい国だった。だが90年代に始まった経済自由化とIT産業の発展がインドを変えたとスィンハ氏はいう。初等教育の充実という「静かな革命」が、教育の階段を上る国際的理系人材を生みだし、中間層が増えた。
     スィンパ氏が出たインド工科大学が理系エリートを育て、その数学的才能教育が,ちょうどIT革命というソフト時代と一致した。中国はハードウェアで離陸し、インドはソフトウェアで発展の道を始めたといえようか。
   英語大国であり、アメリカへの留学(10万人の留学生)がしやすかった。インド個人主義が、アメリカとの同化を助けた。シリコンバレーの父・カンワレ・レキ氏から、マイクロソフトCEOナデラ氏、ハーバートビジネススクール学長ノーリア氏、さらにドイツ銀行ノキアマッキンゼーの最高責任者など人材が輩出している。そうした人材大国が如何して出来たかがこの本では明らかにされている。
    スィンバ氏によれば、いま「古いインド」と「新しいインド」が並立しているという。「古いインド」はカースト意識が強く、低英語力、低教育力であり、「新しいインド」はカースト意識が薄く、英語が標準語であり、高学歴だ。「古いインド」が貧困と汚職、財閥の世界であり、「新しいインド」がIT、エンジリアリング、起業の世界である。
スィンバ氏による日本とインドの企業比較は面白い。「根回し」の技術やシステム化技術を、日本の評価として挙げている。なぜ日本企業が、インドに進出し拡大しないのか(スズキはなぜ成功したかも)のネックの指摘もある。
 スィンバ氏は、工業団地を超え、物流から水処理、発電所までセットになった「日本村」建設と、消費市場には「社内ベンチャー」を作り、速戦即決によるビジネスがインドでは有効という提言は、重要な視点だと思った。(新潮新書