永田和宏『現代秀歌』

永田和宏『現代秀歌』

     歌人・永田氏が選んだ現代短歌の「百人一首」であり、恋愛、青春、家族、四季自然、病と死など10の部類に分けられている。多様な現代短歌が一望できる。
    永田氏によれば、現代短歌は、昭和20年代後半に起こった前衛短歌運動を「近代短歌」との境とし、塚本邦雄岡井隆寺山修司らが活躍してからだとしている。
    歌を本棚から解放し、今後100年読み続けてほしいという永田氏の選歌された現代短歌を読んで感想を書く。

    ① 表現の斬新さの探求がある。河野裕子「例えば君 ガサッと落葉すくうように私をさらって行つてくれぬか」は、訴えの歌を「たとえば」や「ガサッと」という表現で表す新鮮さがある。
    ② 口語表現の成熟がある。会話体を和歌に取り入れる。俵万智「『寒いね』と話しかければ『寒いね』と答える人のいるあたたかさ」を永田氏は選んでいる。東直子「一度だけ『好き』と思った一度だけ『死ね』と思った 非常階段」も。
   ③ 「私」の多様化がある。近代短歌が私に囚われていたのを、フィクションの「私」を導入し、虚構作品を創造する。寺山修司「海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手をひろげたり」を選ぶ。「朝日新聞」(2014年10月10日)「朝日歌壇俳壇」で、東直子氏は、父親の死を歌った石井稜一氏の多数の歌が、実際は父親が存命していたことを書いていた。
   ④ 社会的視野の広がりがある。宮柊二渡辺直己の戦争体験歌が選ばれている。安保闘争など政治歌。道浦母都子「ガス弾の匂い残れる黒髪を洗い梳かして君に逢いにいく」。災害の歌は竹山広「居合わせし居合わせざりしことついに天運にして居合わせし人よ」
   ⑤ 日常を深く体験し新鮮な視点で、生活者を歌う。穂村弘「終バスにふたりは眠る紫の<降りますランプ>に取り囲まれて」や花山多佳子「大根を探しにゆけば大根は夜の電柱に立てかけてあり」が選歌されている。
  この本を読んでいると、おおくの発見に導かれる。短歌を作ってみたくなる(岩波新書