川田順造『<運ぶヒト>の人類学』

川田順造『<運ぶヒト>の人類学』

    長年アフリカで、人類学のフィールドワークを行ってきた川田氏による、物を運ぶ身体技法の文化人類学の考察であり面白い。いま東京で見ても、バックやリュクサック、車輪付きキャリアバック、ベビーカー、トランク、ランドセル、など多様な運搬道具がつかわれている。川田氏は人間を「運ぶ人」と位置付けている。
    アフリカで生まれ、二足歩行を始めた人類は、脳の巨大化、声帯が下がり「二重分節言語」の獲得と共に、自由になった前肢により荷物を運搬できるようになり、移動を開始した。川田氏は「文化の三角測量」として、フランス、日本、西アフリカの身体技法を比較している。二国間の歴史比較でないので、視点が広くなる。
    道具では、フランスが「道具の脱人間化」、日本が「道具の人間化」、アフリカが「人間の道具化」と川田氏は見る。身体技法としての「運ぶ文化」は、西アフリカの黒人は四肢が長く、骨盤の前傾のため頭上運搬に有利で、歴史的に盛んである。日本は四肢が短く、腕より腰を重視し、肩で支える棒運搬(カゴや天秤棒など)が発達し、フランスでは肩と背の上腕で支えるアーチ型とつてが附いたカゴ運搬、腰で支え前に回す物うり運搬が発達したという。
    前頭帯ないし肩前の帯び運搬はネパールや雲南アイヌや沖縄、台湾、南米先住民に見られる。日本では道具の擬人化と感情移入が強いが、フランスでは道具の脱人間化が進み、人力以外の動力に行き着き、車輪文化になる。
    川田氏の本は「運ぶ人」の文化人類学的考察だが、自分の身体を使い、身の丈に合ったものを運ぶことを原点と主張している。川田氏は、アフリカ的な「頭上運搬」のグローバル化を願っているのだが果たしてどうだろうか。(岩波新書