三浦展『新東京風景論』

三浦展『新東京風景論』

    東京オリンピックの高度成長期に、東京には数多くの高速道路が創られた。歴史的建造物の日本橋に高速道路が覆いかぶさった。いままた歴史的建造物の国立競技場を破壊し、神宮の森に巨大な無機質な競技場が建造されようとしている。三浦氏は、東京は「箱化した都市」になったという。外部の風景の無関心化が「箱・都市」を進める。
    建物の箱化は、人の動きの動線をベルトコンベアの「流れ作業」のようにする。三浦氏がいう「箱」とは、オウム真理教サティアンやショッピングモール、駅や空港、原発、マンション、団地、高層オフイスビルのような、閉鎖的な内部がブラックボクスの管理空間であり、効率空間であるという。みなとみらい駅、品川駅東口、羽田空港は「箱化」の典型だという。
    三浦氏は昭和前期の田園風景の中の東京を「原風景」として描き出す。多くの写真や空中写真を示しながら、杉並や湾岸域、多磨、立川、渋谷、新宿がどう「箱化」都市に変貌したかを説く。三浦氏は手塚治虫の未来都市「アトム」と宮崎駿の「ジブリ」の対立軸で東京風景を論じ、さらに第三の超高層ビルと屋台や路地の混淆の「パンク」の三角形で都市空間を分析している。この視点は面白い文明論になっている。
    三浦氏によれば、90年代以後に都市建築思想は、モダニズムとグローバル形式の革命思想から、古い物を持続可能にする「懐古」思想が強まったと見ている。自然環境や歴史的環境と共存する都市が、破壊と効率の街批判を強め、東京の「原風景」の保存を重視することを望む。
    だから三浦氏は国際様式のサバ設計の新国立競技場には反対だし、その審査を取り仕切った建築家・安藤忠雄氏も批判し、伝統的長屋をコンクリートの箱化した「住吉の長屋」作品も評価しないのである。
    自由に歩き回る都市や、猥雑なエロスを含みこむ都市を「箱化都市」に対置している。東京の新風景は均質化と同質化の無個性の「ファーストフードの風土」になってきている。(NHKブックス)