細見和之『フランクフルト学派』

細見和之フランクフルト学派

     フランクフルト学派といえば、ホルクハイマー、アドルノ、フロム、ベンヤミンハーバーマス、マルクゼーゼなど、20世紀思想の大きな思想学派である。70年代に持て囃され、私も著名な書を買って当時挑戦したが、難しく途中でいくつかを放棄した思い出(アドルノの音楽論など)がある。全体像を知ろうと、ジェイ『弁証法的想像力』(みすず書房。1975年、荒川幾男訳)という大冊を読んだ。だがこの本も1950年までのフランクフルト学派の歴史で、終わっている。
     細見氏の本で、やっとその全貌が大まかに理解できた上に、ホネット、ベックなど最近の学派の発展や、アメリカ学派まで追跡していて、便利な入門書になっている。1920、30年代に、マルクスとフロイドを結合した理論から始まり、ナチズムなど反ユダヤ主義に対決した思想学派は、第一世代はほとんどアメリカに亡命している。
     細見氏もアドルノの「アウシュヴィッツのあとで詩を書くのは野蛮である」から、始めていて、なぜ文明が隆盛したヨーロッパで、ナチズムのような野蛮が生まれ、多くが殺戮されたかが、学派の基盤にあることがわかる。
     権威に依存する「権威主義的パーソナリティ」や、宣伝・情報に管理され操作される「一次元的社会」、また同一化の呪縛から異質の他者を理解する「非同一的なもの」を重視する行動などが主張されていくことを、綿密に解明している。細見氏は『啓蒙の弁証法』という著作を「自然と文明の融和」という視点で詳細に述べていて、わかりやすかった。
     さらに第二世代のハーバーマスの「道具的理性」と「コミュニケーション的理性」、「システム」と「生活世界」の矛盾にも、多く触れている。さらにこの学派とフランス・ポスト構造主義の相克と和解を、イラク戦争批判のデリダハーバーマスの反対共同声明まで敷衍して紹介している。第三世代のホネットの「承認」理論まで、触れているのはよかった。現代思想の鳥瞰図が、この本ではデッサンで描かれている。(中公新書