『分裂する大国アメリカ』(「週刊東洋経済」)

『分裂する大国アメリカ』(「週刊東洋経済」11月1日号)

     アメリカ分裂の本を、私が興味深く読んだのは、ケネディ大統領補佐官歴史学者アーサー・シュレージンガー『アメリカの分裂』(都留重人監訳、岩波書店)だった。90年代だから、シュレージンガーは、多民族国家で黒人やラテン系の民族集団が、国民的同一性を分裂させているという危機感があり、多様性を統一体に出来ないことを、分裂の主たるものとした。今年8月のミズーリ州で黒人少年が白人警官に射殺され、暴動寸前だったし、移民法不備で強制送還も増加し、人種・民族差別の「ヘイトクライム(犯罪)」も増えている。「黒人大統領」オバマでも、分裂は潜在している。
     だが、「東洋経済」の特集を読むいまや経済格差による分裂が激しいという。1%のスパーリッチが、株、不動産、債券など全所得の20%を所有し、中間層が低迷し、二極化している実態をルポしている。「1%対99%」の格差社会。フライヤー・ハーバート大教授は、失業や雇用の不平等はスキルレベルの格差であり、教育や地域の格差と結びついていると同誌で述べている。階級流動性や機会均等というアメリカの価値観が失われつつあるというのだ。
     マンハッタンでも富裕層の高給マンションが建ち、中産層でもハーレムに住み、サンフランシスコでもIT企業の富裕者と低所得層が隔離・分離してきているとルポを掲載している。大都市だけでなく、州間格差が顕在化してきている。シェールガス革命や米企業の生産回帰は、テキサス州やノースダコダ州を他州より裕福にしている。ヒューストンの住宅価格はこの10年で6割高だという。だが、テキサスでは貧困人口は17・2%と全米平均を上回る。出身地、出身校、親の職業で分断が進む。
     二極化は過激な白人保守層(ティーパーティ)や左派層(ウォール街を占拠せよ)運動を産んできた。中山俊宏慶大教授は同誌で、国民はオバマ大統領にこの統一を望んだが、オバマ時代に二極化は固定し、党派間の隔たりは大きくなったという。オバマ支持率の低下はその表れという。
金融緩和の終了は予定通りだが、実体経済は良好であり、来夏からの利上げが始まる可能性があり、再度バブルの発生の危機も秘めている。私が興味深かったのは、他方では金融ビジネスが、自己勘定取引禁止など厳しい規制で、高収益の復活は困難という記事だった。
     11月4日の中間選挙は、さらに党派間分裂、大統領と議会の分裂を深める可能性がある。(東洋経済新報社