杉山大志『地球温暖化とのつきあいかた』

杉山大志『地球温暖化とのつきあいかた』

    杉山氏は、気候変動に関する政府間パネルIPCC)の統括報告書の執筆責任者だけあって、温暖化に対する見方は重要な考えが含まれている。冷戦終結後の二酸化炭素(CO2)排出の数値目標を「京都議定書」で定めたが、いま気候変動枠組条約における新しい枠組みが、2015年までに、2020年以後の取り組みの国際的合意を決めようとしている。
    杉山氏によれば、温暖化の悪影響がどの程度かはっきりしないし、不確実性も大きいが、潜在的リスクは大きいという。科学と政治の駆け引きも激しい。報告書も科学的知見か、政治的文書かで見方がわかれるという。杉山氏は、地球温暖化産業革命前に比べて「2度」以下に抑制するためには、世界全体で2010年に比べ、CO2を2010年時点の40−70%削減するとう「2度シナリオ」の特徴と限界を指摘し、実現可能性は低いとする。
    2度を超えると温暖化でどういう悪影響がでるかは、危機感が先走り十分に予測できていない。杉山氏は、漁業、農業を検討し、科学的知見を伝えていないという。さらに、太平洋の小島嶼国のツバルなどの海面上昇による水没の危機にも、温暖化が原因ではないことを、丹念にグローバル経済に依存する離島の危機として捉ていて、興味深い。
    杉山氏は、潜在的な地球規模のリスク管理について、CO2削減だけでなく、温暖化気候への適応と、地球を冷やす「気候工学」(もう少し知りたい)の必要性をいう。日本の温暖化対策については、環境、経済、エネルギー安全保障の面から論じている。「市場の失敗」と「政府の失敗」を取り上げていて、再生可能エネルギー全量買取り制度はコストがかかりすぎ、家電エコポイントも、炭素削減に失敗したと見ているのには驚きだった。省エネは、コストゼロで出来るのかも面白く読んだ。
    杉山氏は、いま日本では、エネルギー安全保障のほうが、温暖化リスクよりも喫緊の課題だという。「2度」以下、80%の温室効果ガス削減の見直しなどの主張を読むと「保守的」とも見えようが、よく読むと温暖化の危機を強く持ち、それを国際的に「現実主義」で、プラグマティクに解決しようとしているのがよく分かる。(ウェッジ)