朝日新聞特別報道部編『原発利権を追う』

朝日新聞特別報道部編『原発利権を追う』

    電力をめぐるカネと権力構造を明らかにしたニュー・ジャーナリズムの傑作である。東京地検も匙を投げた「電官政複合体」の存在を、新聞記者の取材で明らかにした仕事に敬意を表したい。いま歴史の関係者から話を聞き残す「オーラル・ヒストリー」が重視されてきている。
    戦後電力史の裏を荷ってきた関西電力元副社長・内藤千百里氏(91歳)の証言を、長時間インタビューで聞き出したのは圧巻である。中部電力元役員に15回の取材で、その「裏金システム」を明らかにしたのも凄い。また原発誘致の裏仕事をしてきた東電OB・今井澄雄氏の証言も貴重である。こうした証言が得られたのは、福島原発事故があった危機感からであろう。
    この本を読むと、日本で原発が発展してきた裏側に数多くの闇が存在し、地域独占事業を利用し、消費者の電気料金から「地元工作」や「政界工作」に使ってきたことが明白になってきた。特別報道部の市田隆氏は、いま原発再稼働は原発停止のコスト増大理由だが、コスト重視なら電気料金に上乗されてきた裏金を明らかにすべきと書いているが、消費者には当然の権利である。
    なぜ再稼働が九州電力王国の鹿児島の原発城下町・川内原発なのかは読ませる。むつ市の核中間貯蔵施設建設に伴う日安建設のリベートや西松建設の裏金の内部資料、ゼネコンが東電にかわりクレーム処理までする癒着、東電総務部の経産省や政治家献金などが丹念な取材で描かれていく。 
    中部電力の裏金が、県知事選挙や国会議員にどう流れていくかの解明も凄い。松本清張の小説を読んでいるようだ。内藤関西電力元副社長の証言は、田中角栄に1000万円贈るところから、歴代首相・三木武夫中曽根康弘竹下登らの献金を生々しく語る。政治資金規正法以後も続いたというのは驚きだ。
    内藤氏はいう。「世の中は業者、官僚、政治家の三角関係で成り立っている。電力会社は許認可を握る官僚に弱い。官僚は大臣を務める政治家に弱い。政治家は献金と票を集める電力会社に弱い。だから、電力会社は日頃から政治家と仲良くしておく」(朝日新聞出版)