サックス『貧困の終焉』

ジェフリー・サックス貧困の終焉

    西アフリカのエボラ出血熱の蔓延は危機的である。あわてて、米国は3億5千万ドル、日本も4500万ドルの援助を決定した。医療システムや公衆衛生が、貧困によりなおざりにされてきたことも、大き要因である。
    サックス氏は、この本の「声なき死―アフリカと病」の章で、貧困の終焉の一つとして、マラリアエイズ結核が先進国の対外援助で封じ込められると主張している。マラリアの蚊帳、殺虫剤、治療薬、エイズの抗レトロウィルス、などが、貧しさから行きわたらない。医師がいる診療所も少なく、人々は治療にいかない。世界基金設立で少しずつ封じこめられてきている
    サックス氏は「臨床経済学」を唱え、「貧困の罠」からいかに抜け出すかの診断・処方を行ってきた。この本でも、ボリビアポーランド、ロシア、中国、インドの経済顧問などになり、「貧困の罠」から、いかに離陸したかを、現地経済の臨床から論じている。
    だが、サックス氏の主要目標はサワラ以南のアフリカである。2000年に国連総会で地球上から貧困をなくす「ミレニアム開発目標」が採択されると、国連事務総長特別顧問になる。サックス氏の主張は、ODA(政府開発援助)の増額による最低貧困国への援助である。それも医療、教育、生活インフラ、テクノロジー重視である。貧困層コミュニティに直接に無償で10年間供与する。政府開発援助は、GDPの0・7%が必要とされているが、先進国は0・29%、日本は0・17%と少ない。
    サックス氏は援助事業の成功例を、天然痘撲滅や「緑の革命」などという。世界銀行IMF、WHOなどに対して、反グローバリズム運動があるが、この本では多国籍企業寄りや、医療、教育、生活インフラ援助に冷淡であり、依存性や汚職などの警戒から、増額を好まないと批判している。サックス氏は、2025年までに「貧困」を変えられると楽観的である。
    なおサックス氏は、10月1日「朝日地球環境フォーラム」に来日し、気候変動による異常気象を防ぐための「脱炭素社会」実現のため、米国、日本、中国など経済大国への削減目標設定や、途上国への資金支援を主張していた。「朝日新聞朝刊2014年10月2日」)
早川書房鈴木主税野中邦子訳)