舘野正樹『日本の樹木』

舘野正樹『日本の樹木』

    植物学者・舘野氏が生態学を踏まえ、ヒノキ、ブナ、ケヤキなど日本の樹木26種の進化の秘密を書いた本である。筆者が撮影したカラー写真が、数多く掲載されており楽しい。山登りしたときや、野外で木を見分けられるなと思った。
    日本だけ見ても、樹木は1000種近い。舘野氏は「寿命の戦略」で三類型にわける。①常緑高木は、暗い林床で成長を続け、100年以上の寿命のあいだに巨大な植物体を作る。②落葉高木は、明るい環境で速い成長を続け、比較的短期間で大きな植物体を作る。③落葉性中低木は、短い寿命であり、明るい環境で光合成を行い、短期間で子孫を残す。
    舘野氏の書き方は、生態学を土台とした樹木をめぐるエッセイのような面があって、読みやすい。例えば法隆寺はヒノキ造りだが、当時は奈良盆地にヒノキが生育していたが、平城京建設で枯渇し、滋賀県信楽から大量な材を運んだ。江戸時代ヒノキは木曽5木になり、手厚く保護された。藤村『夜明け前』の主人公青山半蔵は、明治維新で共有地として伐採を主張した。だがそうしたら乱伐がおこる「共有地の悲劇」が生じ森林が荒廃していたろう。江戸期に白神山地のヒノキアスナロは、野放図な伐採で失われたという。
    スギ人工林の間引きしない放置によって荒れてしまい、さらにスギ花粉で評判をおとしているが、スギ材のよさを舘野氏は指摘している。クスノキでは防虫のためにカンフル(樟脳)がつくられると述べ、ほかにスタジイという木ではタンニンが、常緑樹では葉を硬質にし食べられないようにするという。
    ブナの一斉開花の秘密や、カエデの紅葉の仕組み、ヤマクワの力学的安定性の知恵、イチョウの雄雌異株の在り方、シダレ柳の人工性など、面白い話題が、ふんだんに盛り込まれていて興味はつきない本である。(ちくま・カラー新書)