服部茂幸『アベノミクスの終焉』

服部茂幸『アベノミクスの終焉』

     10月31日、日銀は追加の金融緩和に踏み出した。市場に流し込むお金を10兆―20兆円増やし、長期国債を買うのを年80兆円にし、金利を下げるというものだ。異次元緩和から1年半での追加決定は、物価上昇を「2年で2%」が出来ないことを明らかにした。服部氏の本は、8月刊行でこの前だが、「雨乞いで雨を降らせなければ、もっと強力な雨乞いを行う」と書き、雨乞い師は免責され、異次元緩和の政策効果の疑問は無視されると述べていた。
     服部氏は、アベノミクス以前の日本経済は回復していたが、異次元緩和後は経済成長率も低迷し、低い成長率を支えるのは、政府支出と消費税駆け込み需要であり、実質賃金と家計所得は減っていることを、データで実証している。目標の円安になっても、輸出は増加せず、輸入が増加し輸入インフレが、貿易赤字を拡大し、家計を圧迫している。そのため消費者物価は上がらない。
     この本では、異次元緩和を支える経済学が、アメリカのバーナンキ元連邦準備議長の緩和経済学を基に、批判されていて読み応えがある。そこには、正しい金融政策が解決すれば、マクロ経済も安定化するとか、金融システムが立ち直って、実体経済はすぐ回復するという単純な金融政策が批判されている。
さらに、財政政策と公共事業や、成長戦略と企業の利益を賃金上昇とむすびつける「トリクルタウン」というアベノミクスが、いかにうまくいかないかが示されている。
私が面白かったのは、服部氏が紹介しているクイギン『ゾンビ経済学』(筑摩書房山形浩生訳)である。2008年金融危機を創り出した経済学として、大緩和時代、効率的市場仮説、動学的一般均衡モデル、トリクルダウン、民営化の5経済学を挙げている。服部氏は、アベノミクスでゾンビ経済学は復活したという。
     金融緩和、円安の輸出拡大で製造大企業利益を増やし、賃金上昇させるトリクルタウン、民営化、合理的経済人の将来期待(予想)による転換は、ゾンビ経済学である。黒田総裁も、今回の記者会見で「期待」を変える姿勢を主張していた。私は、この本を読んで将来に期待よりも不安を感じた。(岩波新書